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夏への扉 ロバート・A・ハインライン [文学]

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天才科学者のドクが発明したスポーツカー型タイムマシンに高校生が乗って時間をさかのぼり、父母の出会いを助ける―。おなじみの米映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が公開されたのは1985年だった。この映画の題材として大きなカギを握ったのが、タイムパラドックスである。タイムトラベルした先の過去を変えると、現代と矛盾が生じてしまう。父母がちゃんと結婚しないと、子どもである自分がなかったことになるからだ。

本書が世に出たのはそれより30年ほど前。タイムトラベル小説が直面する問題である「自分自身との遭遇」「タイムトラベルによる過去の改変」などを扱った初期のSF小説の一つである。舞台は1970年のロサンゼルス。恋人に裏切られ、発明品を親友に奪われた天才発明家ダンは、冷凍冬眠で30年後、2000年の世界に行ってしまう。そこで見つけたのが、かつて自分の頭の中で思い描いていた新型の機械。特許取得者は自分と同姓同名の人物。それは私のことなのか? 意を決したダンは密かに開発されていたタイムマシンに乗って過去に戻り、未来の結果を起こすべく手を尽くす。

さて、本書が世に出た1957年から見た2000年とはどんな世界なのか。冷凍睡眠から覚めたダンが新聞を手に取ると、こんな見出しが躍っている。「月世界定期便、双子座流星群のためなお空中に待機中」「人工授精母性団体、賃上げ要求」。残念ながら21世紀を17年経た今でもこんな世の中にはなっていない。ましてや軍事機密とはいえタイムマシンは姿もまだない。

今でも本書はSFファンの圧倒的な支持を受け、歴代SF小説ベストテンの常連である。そんな評価に背中を押され読んでみたが、コールドスリープでタイムリープするまでの親友や恋人とのやり取りが延々と続き、文庫本の冒頭130ページほど割いているのには閉口してしまった。好みの問題だろうが、なぜそんな多くの人たちに支持されるのか。一つはタイムパラドックスというSF小説の定番概念を確立したという文学的功績。そして親しい人たちに裏切られても決してあきらめず、ハッピーエンドを手にしたという痛快さだろうか。それが、たとえ季節が冬であっても、家のドアから「夏への扉」を探し続けるのをあきらめなかったというダンの飼い猫に象徴されているのだ。


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管見妄語 とんでもない奴 藤原正彦 [エッセイ]

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理系学者で文章のうまい人は多い。夏目漱石の弟子で「天災は忘れたころに来る」で有名な物理学者の寺田寅彦に始まり、最近ではベストセラーを連発する生物学者の福岡伸一青山学院大学教授まで、枚挙にいとまがない。もちろん、へたな人も大勢いるだろうが、なぜだろう。やはり、理論をきちんと組み立てられる能力が、うまい文章構成に活かされているのだろうか。

この著者も、やはりうまい。数学者であり、父・新田次郎、母・藤原ていという作家夫婦の間に生まれた。幼少期に旧満州から母親と命からがら引き揚げた体験を持ち、成長した後は数学者として欧米で知己を得る中で、現代の日本に懸念を持つようになったという。本書は「週刊新潮」の連載コラムだが、鋭い視点で日本の迷走や、不穏に満ちた世界情勢を喝破する。

例えば「『平等』は小うるさい」の項。お茶の水女子大学に勤めていた時、国会で「国立大学であるながら男子を入れないのは差別ではないか」との質問が出て、学内は大騒ぎ。その様子を見ていた著者は喝破する。「女子大であることは本学最大の伝統であり個性であり生命である。伝統は合理性を超越する」と。

話題は世界情勢からキノコ狩りまで縦横無尽の題材を取り上げる。世界を覆う新自由主義を嗤い、学生のいたずらに自分の武勇伝を重ねて懐かしむ。簡潔な文体と豊富な知識・データを採り入れた説得性がこの人の本の魅力である。主張はややエキセントリックな印象を受けることもあるが…


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薄っぺらいのに自信満々な人 榎本博明 [新書]

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挑発的なタイトルが目を引いた。会社の管理職をしていると、表題のような社員は本当に手に負えない。仕事ができないのに、なぜあんなに自信過剰なのだろうか。特に平成元年前後のバブル入社の世代に多い。ちやほやされてきとんとした指導を受けずにきたのか、そんな世代ももう50代である。自信満々の理由を知りたくて、古本を購入した。

こんなタイプの人間は予想以上にいるのだそうだ。高校生を対象としたある調査では、85%が自分は平均より上だとみなしているという。「あり得ない勘違いが現実に生じている」と著者は指摘する。なぜ自信を過大評価するのか。それは、能力の低い人は、自分の置かれた状況に気づく能力も低いということだ。だから、自己認知能力を鍛えるトレーニングをさせて認知能力が向上すると、著しい過大評価傾向は大きく改善されるという。

逆にできる人は、うまくいかなくなるあらゆる可能性を想定して多面的に考えるから、「まだまだ自分には至らない部分、足りないところが多い」と謙虚に我が身を振り返ることができる。そして「もっとうまくなろう」「もっと努力しよう」という向上心が湧く。

これは、「ダニング=クルーガー効果」という認知バイアスといわれる。能力の低い人ほど楽観的で、高い人ほど不安が強くなる。ポジティブな性格は現代では歓迎されているものの、過剰にポジティブな人の危険性は困りものだ。だから、実業家・稲盛和夫氏は「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」との標語をかかげたそうだ。人間の本質を見抜く力もさすがである。

本書は引き続き、意識高い系やソーシャルメディア、コミュ力信仰などをキーワードに、現代社会に流れる没個性化やいびつな自己愛の気持ち悪さをあぶり出す。そして、ぼっち(一人)になって自分自身で考える力をつけることを勧める。所詮、「自信満々」も「意識高い」も根拠の薄い他人との比較である。どうしても自意識過剰にならざるを得ず、対人関係に疲弊してしまう時代にあって、思索を深め、情報を知識にする自分自身と対話する力が必要なのだろう。


薄っぺらいのに自信満々な人 (日経プレミアシリーズ)

薄っぺらいのに自信満々な人 (日経プレミアシリーズ)

  • 作者: 榎本 博明
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2015/06/09
  • メディア: 新書



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応仁の乱 呉座勇一 [新書]

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日本史上、最も有名な戦乱である「応仁の乱」。だが、その内容を答えよと言われれば窮する。なぜ戦乱が起こったのか、そして最終的にだれが勝ったのか。NHK大河ドラマの歴代最低視聴率記録を長年保持していた「花の乱」を取り上げるまでもなく、「応仁の乱」を扱った作品に成功例は少ない。そんな中、この手の新書としては異例の40万部以上のベストセラーになっているということなので買ってみたのだが、やはりややこしくてよく分からない(笑)。

読了後も判然としないのは、著者のせいではないだろう。この戦乱は、発端の当事者である細川勝元と山名宗全らも大乱になるとは予想しなかった。それが多数の大名を巻き込んだために、幕府もコントロールできなくなっていき、京都だけでなく各地で戦闘がくり返された。もちろん、「井楼」と呼ばれる物見櫓風の防御施設が導入されて攻防が長引くなどの戦術面での変化もあった。その結果が終結まで11年もかかることになってしまったのだ。

本書は、ほとんどの日本人が実態を知らないこの大乱を、最新の研究成果を踏まえながら実証的に検証してみせる。舞台の中心に据えたのは、奈良・興福寺の2人の僧である経覚と尋尊。それぞれが残した日記「経覚私要鈔」と「大乗院寺社雑事記」をベースに書いている。さらに応仁の乱を挟んだ歴史の流れに紙幅を割いており、あの時代の応仁の乱とは何かを解いていく。応仁の乱がもたらしたものは、諸国に新たなパワーバランスを生みだし、そして京都から避難した人々によって地方に文化を拡散したということも見逃せない。

多分、著者自身もこんなに売れるとは思わなかったのではないか。分かりやすさが求められる新書の中で、分かりにくい戦乱を豊富な資料を元に一つづつ解き明かしていく愚直さがディープな歴史ファンにささったのかもしれない。まさに応仁の乱のごとく、あれよあれよという間のヒット作に化けたのだろう。


応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)

応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)

  • 作者: 呉座 勇一
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/10/19
  • メディア: 新書



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定年後 楠木新 [新書]

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厚生労働省が今夏発表した2016年の日本人の平均寿命は、女性87.14歳、男性80.98歳。いずれも過去最高を更新した。世界では男女とも香港に次いで世界2位である。日本の平均寿命は延び続け、会社定年退職後の年月もまた長くなっている。まだまだ働ける60代。定年という「その日」を迎えてうろたえる人も少なくないだろう。

著者によると、8万時間説というのがある。60歳で定年して平均余命の84歳まで生きたとして自由時間はほぼ8万時間。一方で、21歳から60歳まで40年間の総労働時間が8万時間弱。つまり、これまで働いてきた時間分だけの余暇が定年後にあるというわけだ。仕事中毒のサラリーマンからすると、ある意味背筋が寒くなるような膨大な時間が待ち受けている。

大手生命保険会社に勤めているころから著者は定年後について準備を進めてきた。50歳からは会社員から転身した人たちを追うフリーライターを兼ねるようになり、定年後も「働く意味」をテーマに取材や執筆を続ける。その体験から、「黄金の15年」と呼ぶ60~74歳の時間を充実したものにするためには、50代からの助走が必要となるという。そして自分の「死」を意識して逆算で考え、幼少期にやりたかったことや会社員時代に培った能力を活かすよう設計してみることが重要だと説く。身も心も会社人間であることをやめ、社会とのつながりを持てと。

もちろん、現在では年金支給額の引き上げに伴い、65歳までの定年延長や再雇用制度の拡充が多くの企業で進んでいる。働ける期間が伸びることはいいことだが、それだけ「第二の人生」への助走が鈍りはしないだろうか。

それにしても、本書には、定年にまつわる本が次々と引用され、こんなにもあったのかと驚いた。重松清「定年ゴジラ」、関沢まゆみ「隠居と定年」、渡辺淳一「孤舟」、津村記久子「給水塔と亀」…。ページをめくると身につまされるかもしれないが、手に取ってみようか。


定年後 - 50歳からの生き方、終わり方 (中公新書)

定年後 - 50歳からの生き方、終わり方 (中公新書)

  • 作者: 楠木 新
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/04/19
  • メディア: 新書



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万葉集から古代を読みとく 上野誠 [新書]

正直言って本の帯を見て手に取った書である。「『誰そ彼‥』から『君の名は。』へ つながる古代と現代」。序章では昨年夏大ヒットし、万葉集の歌がモチーフになったアニメ映画「君の名は。」が紹介されている。著者は万葉集研究者の第一人者。であるから、知人から「いちおう見ておくべきだ」との助言を受けたという。当の本人は普段見ないアニメ映画を見て「日本も捨てたもんじゃない」と感嘆したようだ。

「誰そ彼と 我をな問ひそ 九月の 梅雨に濡れつつ 君待つ我を」

これが「君の名は。」の重要な鍵を握る歌だ。薄暗い夕方ですれ違う人の顔がよく見えない「誰そ彼(たそがれ)」時。そんなたそがれの中で主人公の2人は「君の名は」と呼び合う。そんな映画だった。

それはさておき、著者は万葉集についての豊富な知識と資料を駆使し、なぜ7ー8世紀の歌が今に残り、息づくのかを解説している。最も敬意を表しているのが、「銀(しろかね)も 金(くがね)も玉も なにせむに 優れる宝 子に及(し)かめやも」の歌で知られる山上憶良だ。無位無官から、その漢文の才によって見出され、遣唐使となって唐に渡り、貴族となって地方官を歴任した人物である。その漢文における作文能力は、同時代において高い評価を受けていたものとみられるという。

和文の歌に漢文の序をつける手法を取った山上憶良は、日本文学史上はじめて、子どもへの愛を綴った歌人だ。それは中国詩の子どもの文学を手本として、はじめて可能になった。彼は、漢文で書かれた序を通じ、己の子への思いを自由に語る免罪符を得たのであった。「和魂漢才」の源流を憶良に見ることができると著者は主張する。8世紀前半に生きた憶良こそ、日本型知識人の源流・原型だというのだ。

それにしても、「君の名は。」目当てで書店の本書を手にした身からすると、読み込むのにかなり労力がかかった。万葉集の一通りの知識がある人にはお薦めするが、そうでないと読み続けるのは骨が折れるかもしれない。ただ、万葉集を一言で言うと、「7世紀と8世紀を生きた日本人の、声の缶詰でしょうか」と結んでいる。その言葉にはうなずいた。


万葉集から古代を読みとく (ちくま新書1254)

万葉集から古代を読みとく (ちくま新書1254)

  • 作者: 上野 誠
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2017/05/09
  • メディア: 新書



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隣国への足跡 黒田勝弘 [ノンフィクション]

今夏公表された日韓共同世論調査の結果を見ると、ざっくり言って両国とも相手国に対して悪い印象を持っていると答えた人は半数。良いは4分の1にとどまっている。韓国は教育を含め、社会的に反日の空気があり、そんな空気を読み取った日本人の「嫌韓」意識も根強い。そのムードも近年は訪日韓国人観光客の増加で少しは和らいでいると聞くが、根本的に両国が急速に良好な関係になる材料は今のところ見当たらない。

著者は産経新聞ソウル駐在客員論説委員で、ソウル在住35年の新聞記者だ。1941年生まれだから、人生の半分近くを韓国で過ごしていることになる。そんな著者が主に取材の実体験をもとに日韓の近現代史をひもといてみせる。日韓併合前の閔妃暗殺事件、戦後日本で起こった金嬉老事件、金賢姫による大韓航空機爆破事件など、日本人の耳目を集めたエピソードの持つ意味を解説してくれる。

韓国の徹底的な反日教育の背景には、35年続いた日本の韓国併合があると著者は指摘する。戦時中の京城(現ソウル)の映画館では、日本軍の戦勝場面を伝えるニュース映画に観客が熱狂した。日本人と同化してしまったのだ。日本人になりつつあった韓国人のアイデンティティーを取り戻し、元の韓国人にするためには日本を全否定する反日教育が必要だったという。

そもそも地政学的に日本は韓国と無縁ではいられない。前世紀から振り返っても、朝鮮半島の利権を奪い合った日露戦争と第2次世界大戦、そして米ソ覇権をかけた朝鮮戦争と、それぞれに日本は深くかかわらざるを得なかった。それの状況は今後も変わらないだろう。

そんな韓国に住む日本人の居心地の悪さも著者は正直に語る。日韓関係を語る時、双方の視点とその先に見える風景は異なって当然だ。その風景が近くなることはあっても同じになることは今後もありえないだろう。「しかし、お互い隣に存在するという地理的環境だけは不変なのだ。だから逃げ出すわけにはいかない」と著者は言う。そして隣国との付き合いに悩まされ続けるのである。


隣国への足跡 ソウル在住35年 日本人記者が追った日韓歴史事件簿

隣国への足跡 ソウル在住35年 日本人記者が追った日韓歴史事件簿

  • 作者: 黒田 勝弘
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/06/23
  • メディア: 単行本



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打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか? 岩井俊二 [映画]

原作の文庫本も出ているが、今回はアニメ映画の話である。舞台は夏休みの外房。主人公の中学生・典道が想いを寄せるなずなは母親の再婚が決まり転校することになった。なずなは典道を「駆け落ちしよう」と誘い、町から逃げ出そうとするが、母親に連れ戻されてしまう。ところが、なずなが海で拾った不思議なガラス玉を投げつけると、連れ戻される前まで時間が巻き戻されていた‥というあらすじだ。

本作は、映画や音楽などマルチに活躍する岩井俊二が世に出るきっかけになった話題作。1990年代にテレビドラマに次いで実写劇場版にもなっている。少年少女の淡い恋を描いたジュブナイル映画で「ヒロインを助けるか助けないか」の選択を2通りの物語で見せる設定だが、今回は同じ時間を何度も繰り返す「ループもの」に仕上げている。そのトリガーとして今回初めて出てくるのが不思議なガラス玉。これを投げることによって違う選択肢の平行世界に飛んでいける設定だ。

アニメ版を手がけた総監督の新房昭之は、「魔法少女まどか☆マギカ」などのヒットで近年注目度が高まっている。昨夏、新海誠監督の「君の名は。」で空前の大ヒットを飛ばした東宝が、今夏の劇場版アニメ枠で起用したのも、むべなるかな。思春期の入り口に立った少年少女の繊細な心情や一瞬の輝きを美しい映像で描き出している。

ところで、漫画やアニメを原作に実写化することは珍しくないが、実写映画をアニメ化するのはこれからのトレンドなのだろうか? わざわざ実写映画をアニメ化する意味を原作ファンなら考えるのだが、一つはやはりファンタジーの世界を広げられること。終始打ち上がる花火の映像美はもちろん、主人公の二人を乗せた電車が海の上を走ったり、シンデレラ風の馬車になったり。アニメ本来の特質を最大限に生かしている。もう一つはヒロインを限りなく魅力的につくり出せること。本作に出てくるなずなは中学生とは思えない色香を漂わせている。

映画公開に合わせ、ネットの動画サービスでは実写版が再公開されている。ヒロイン役は当時16歳の奥菜恵。年齢以上の大人ぶった演技が印象的だ。それにしてもジュブナイル映画って最近見かけない。かつての岩井俊二の「リリイ・シュシュのすべて」もそうだったし、「スタンド・バイ・ミー」のように若さをもてあました少年少女をモデルにしたものは流行らないのだろうか。現代のティーンエイジャーを投影しにくくなったのかもしれない。

昭和の雰囲気が色濃い外房が本作の舞台になっているが、時代設定はどうも2000年代のようである。ヒロインが「お母さんがよく口ずさんだ」という松田聖子の「瑠璃色の地球」を歌うシーンがそれを思わせる。ところが、ラストシーンで主人公の友人の少年たちが好きな子の名前を大声で叫ぶシーンがあり、思いあまって当時人気だったアイドルの名前を叫ぶ子もいる。ネタバレになるから言わないが、その名を聞くと‥。

「打ち上げ花火」と「夏の恋」。美しくもあり、季節が終われば瞬く間に消えてしまう永遠のモチーフではある。不思議な玉を投げるたびに二人だけの世界が加速度的に構築されていく。クライマックスでやっとなずなの気持ちを理解した典道。彼女のために力を奮い起こそうとしたところまでいったところで物語は急展開を見せる。自分の運命を受け入れ、先に大人になってしまうなずなに対して、子どものようなエネルギーを持てあます少年たち。思春期の少年少女の対比が印象的な映画だった。



打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? (角川文庫)

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? (角川文庫)

  • 作者: 大根 仁
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/06/17
  • メディア: 文庫



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ソ連が満洲に侵攻した夏 半藤一利 [ノンフィクション]

8月15日、終戦記念日である。72年前の夏、日本本土が敗戦の落胆と戦争終結の安堵に包まれていたころ、そこから戦争の悲劇が始まった場所がある。中国東北部の「満洲」と呼ばれた地域だ。1945年8月9日、ソ連は中立条約を破棄して満洲に侵攻、関東軍総司令部はいち早く退却し、満蒙開拓団などで入植していた大勢の民間人が殺戮と暴行と略奪の嵐に巻き込まれ、見殺しにされた。現地に駐在していた日本軍兵士や根こそぎ動員された男性民間人は、シベリア抑留の犠牲者となる。

本書はソ連の指導者スターリンが対日参戦を指示し、戦争が終結するまでを膨大な資料を駆使して再現している。著者はソ連の参戦を加速させたのが米国の原爆実験成功だったと指摘する。当時、対独戦争で疲弊した国民を鼓舞してまでも日本に戦争を仕掛けたかったのは、アジアの利権を米国に独占させることを見過ごせなかったからだ。1945年2月のヤルタ会談では、南樺太や千島列島の引き渡し承認の密約を米英に要求する。戦争終結を早めたかった当事者たちはソ連の欲深い主張を飲まざるをえなかった。

ソ連の侵攻を招いた背景には、日本の指導層の無能無策、優柔不断さ、情報収集力の欠如があると著者は指摘する。「起きてほしくないことは起こらない」とする裏付けもない楽観主義は、対日参戦を決めていたソ連に終戦の仲介をすがるという絶望的な決断へと日本を導いた。その経緯を著者は怒りを抑えた筆致で書き進める。どころどころその怒りは抑えきれずに行間ににじみ出す。それほど、満洲に置き去りにされた居留民の体験はむごたらしいものだった。

先月、旧満洲地域を旅行した。ソ連と国境を接する黒竜江省の開拓団跡にも立ち寄った。地平線までトウモロコシや大豆畑が広がる緑の大地には、かつて入植していた日本人家屋はもうほとんど残っていない。中国の目覚しい経済発展で、こんな奥地にも高速道路が伸び、工業団地が広がる。あの戦争を証言する遺構は、観光名所となった建物を除けば開発の波にのみ込まれ、消えつつある。だが、この曠野で阿鼻叫喚の惨劇が繰り広げられた事実は消えることはないだろう。

満州からの引き揚げ者の犠牲者は日ソ戦での死亡者を含めて約24万5000人にのぼるという。その数は、東京大空襲や広島原爆、沖縄戦をしのぐ。


ソ連が満洲に侵攻した夏 (文春文庫)

ソ連が満洲に侵攻した夏 (文春文庫)

  • 作者: 半藤 一利
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2002/08/01
  • メディア: 文庫



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応天の門 灰原薬 [漫画]

政界は魑魅魍魎の巣とは、いつの時代にも言われることだ。今年に入っては森友学園や加計学園問題など、妖怪変化のような人物たちが政官民から次々と現れては世間を騒がせている。

千年以上前の平安時代もそうであった。本書の舞台は、藤原家が勢力を強めた応天門の変(866年)前夜の平安京だ。女官の連続失踪事件を鬼の仕業と不安がり、狂犬病を憑き物と恐れた。そんな事件を次々と解決するコンビがいた。京の治安維持を任された検非違使を束ねる在原業平、そして後に「学問の神様」として世に名を残す少年時代の菅原道真だ。

業平はご存知の通り、平安きっての歌人で恋多きプレイボーイ。男女の機微や社会の裏側にも通じている。一方、道真は若くして文章生(もんじょうしょう=詩文や歴史を修めるエリート)になった本の虫で、世間にはまったく興味がない。性格が正反対の業平に反発しつつも、博覧強記の知識と優れた洞察力で助けてしまう。平安版の「相棒」といったところだ。

二人は欲望渦巻く平安の権力闘争に巻き込まれていく。道真は政治とのかかわりを避けて学問の道を究めようとするが、その才能ゆえ宮廷から一目置かれ、あるいは敵視される。「隠そうとて才はいずれ世に出てしまうもの」と父親から言われる。

ミステリー風な探偵譚を横糸とするなら、宮廷を巡る陰謀が縦糸だろう。この二人が歴史の大きな流れの中でどう対処していくのか、楽しみである。平安の風俗についても詳細に描かれていると思ったら、監修は東京大学史料編纂所の本郷和人教授。本書に収録されている平安時代の文化・風俗に関するコラムが当時の事情を理解する手助けになる。


応天の門 1 (BUNCH COMICS)

応天の門 1 (BUNCH COMICS)

  • 作者: 灰原 薬
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/04/09
  • メディア: コミック



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