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文明の衝突 サミュエル・ハンチントン [ノンフィクション]

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最近、また本屋で平積みになっているのを見かけた。欧州を中心に世界各国で頻発するテロが続く。特にイスラム主義者と西欧諸国の死闘は出口のないトンネルの中を走っている。そこで再び脚光を浴びているのが、1990年代に米政治学者(故人)が出版した本書というわけだ。

ファシズムや共産主義による世界的な抗争が終わりを告げ、米ソ冷戦も終焉した後の世界政治を突き動かす力学は何か。著者は「文明の衝突」が最も目立つようになるだろうと予言した。世界は八つの文明に分けることができるという。すなわち、西欧・中国・日本・イスラム・ヒンドゥー・スラブ・ラテンアメリカ・アフリカである。日本はこれまで西欧にも中華圏にも染まらず、独自の経済や文化を築いたことから、1カ国で単独の文明を持っている。そして、世界各地で頻発する紛争の原因は「文明の断層線(フォルト・ライン)に沿って起こる」と論じた。

これは同じく米政治家のフランシス・フクヤマの論調と対照的だ。国際社会において西欧型の民主主義と自由経済が最終的に勝利し、安定した政治体制が構築されるため、戦争やクーデターのような歴史的大事件はもはや生じなくなると「歴史の終わり」に書いているからだ。ところが、欧米は自らの普遍的な文化を広めようとしたものの、国力の相対的な低下により、その能力に乏しい。一方で、非西欧型の中国などアジア地域の国々は西欧化するどころかむしろ、急速な経済成長をバックに自分たちの固有の文化に自信を強めている。

特に近年頻発する西欧とイスラム教との衝突は、暴力的な一部過激派に問題があるという見方を著者は否定する。それは「われわれはだれなのか」というアイデンティティーをベースにした闘いだからである。90年代のユーゴスラビアの解体はまさに、分裂した国を挙げての宗教・文化戦争だった。イスラムの国々は敵対しながらも、時には共通の敵である西欧文明に対し、支援を施したり同調する。

それでは日本はどうか。中国の台頭と米国の衰退の中で、中国への同調を強めるのではないかと推察している。日本という国は歴史的に見て不可抗力を受け入れ、最強国との連携を取り持つことを是としている。さらに東アジア圏で米国の影響力が消え、中国が完全な主導権を握れば、むしろ不安定な状況や紛争は減るとしている。そのころには、日本は米国より中国側についているだろうというのだが、それはどうだろうか。著者の言い分はいささか過激に思えるが、いずれにせよ、東アジアのパワーバランスが変動する中で、日本が抜本的な戦略見直しをしないといけないことは理解できる。

ハンチントンの主張は当時、大きな論議を呼び起こしたが、広く社会に受け入れられたわけではない。欧米以外の記述に誤解や曲解が多いからだといわれているが、そもそも西欧文明の普遍性を否定するものだからであろう。異なる宗教と文化を持つ民族は共存も協力もできないという結論を受け入れたくない人も多いはずだ。人間とは異なる文明に不寛容な存在だとしても。



文明の衝突 上 (集英社文庫)

文明の衝突 上 (集英社文庫)

  • 作者: サミュエル ハンチントン
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2017/08/22
  • メディア: 文庫



文明の衝突 下 (集英社文庫)

文明の衝突 下 (集英社文庫)

  • 作者: サミュエル ハンチントン
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2017/08/22
  • メディア: 文庫



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わたしを離さないで カズオ・イシグロ [文学]

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2017年のノーベル文学賞は、長崎県生まれの英国人小説家カズオ・イシグロに決まった。読書家以外の人たちにはなじみの薄い人のようだ。夕方のネットの速報に「え、だれ?」という声が職場のあちこちに上がっていた。耳慣れない日本人名。長年受賞を待ち望んでいた村上春樹ではなくーという疑問も「?」の中に含まれていたのだろう。

同賞発表の夜、近所の本屋をのぞいたら、早速、イシグロ作品のコーナーが出来上がっていた。発表直後で急ごしらえだったから、在庫の本もわずかだ。そんなコーナーの中で一番冊数の多かったのが、本書である。代表作「日の名残り」よりも日本で有名なのは昨年、TBSテレビでドラマ化したからだ。綾瀬はるか主演。当時は視聴率が取れなかったが、ノーベル賞受賞で話題を呼び、近々、CS放送で再放送されるという。

舞台は英国。外界から隔絶した寄宿学校ヘールシャムは、他人に臓器を提供するために生まれてきたクローンの子供たちを育てる施設。キャシー、ルース、トミーは、そこで小さい頃から一緒に過ごしてきた。成長し、ルースとトミーが恋仲になる。トミーに想いを寄せていたキャシーは二人のもとを離れ、3人の絆は壊れてしまう。やがて彼らに「使命を果たす」時が訪れる。ルースの提供が始まる頃、3人は思わぬ再会を果たす。

物語はキャシーが幼少時代からの過去を回想する一人語りで始まる。寄宿舎で繰り広げられるささやかな楽しい出来事やトラブル。どこの世界でありがちな日常がそこにもあった。一方で、施設での奇妙な仕組みにも思いをめぐらす。情操教育のために絵画や詩に力を入れた授業、毎週行われる健康診断、保護官と呼ばれる教師たち。

そしてキャシーが15歳になった時。「映画俳優になりたい」という子どもの声を耳にした先生が真実を告げる。「あなた方の人生はもう決まっています。いずれ臓器提供が始まります。あなた方は一つの目的のためにこの世に生み出されていて、将来は決定済みです。ですから、無益な空想はもうやめなければなりません」

無慈悲で残酷な世界だ。主人公たちの悲しい運命から生じる生への願望、生まれてきた意味を問い苦悩する日々。著者の抑制の効いた文体が、それを際立たせる。人は必ず老いて死ぬ。その運命に向き合い、この世界で共有できる時間がとても短いと知った時、われわれが愛おしいと思えるものは何なのか。多くが運命を受け入れて20代で人生を終える「提供者」たちは、その時間を凝縮させてわれわれに見せてくれるのだ。

では、「提供者」たちに人権はないのか。それにはヘールシャムの創設者が答える。「世間はなんとかあなた方のことを考えまいとしました。どうしても考えざるをえないときは、自分たちとは違うのだと思い込もうとしました。完全な人間ではない、だから問題にしなくていい」。ー「あの人たちは私たちと違うのだ」。他者を排除し、都合が悪ければ目を背ける。なかったことにする。今、世界で起こっている難民や宗教を背景とした武力衝突とまったく同じ思考ではないだろうか。

本書はただのSFラブストーリーではなく、人間の普遍的なテーマに入り込もうとしている。どこの世界でも起きうる問題を、日本生まれの英国人作家が12年前に示してくれた。本書のテーマ設定について著者はNHKの番組で「私たちは私たちがつくったものに逆襲されるのですよ。よくあることですけれどね」と語っていたのが印象的だった。

物語はキャシーの回想が現代に追いつくところで終わる。ヘールシャム時代の友人たちを亡くした彼女にも、いずれ避けられない運命が待っていることは想像にたやすい。いつまでも余韻ととともに後を引く作品である。

ちなみに、表題の「わたしを離さないで(NEVER LET ME GO)」は、キャシーが寄宿舎で聞いていたカセットテープの曲名。映像化された時に再現されているが、マーク・ロマネク監督の映画(2010年)に出てくるオールディーズ調の曲より、TBSドラマに使用されたジュリア・ショートリードのジャジーな曲の方が好きだ。


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

  • 作者: カズオ・イシグロ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/08/22
  • メディア: 文庫



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茨木のり子詩集 谷川俊太郎選 [詩]

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<詩人の茨木のり子さんは15歳で日米開戦、19歳で敗戦を迎えた>。そんな書き出しのエッセイが、先日紹介した藤原正彦著「管見妄語 とんでもない奴」に載っていた。それが気になって手にしたのが本書である。藤原氏の文章は、戦争の悲しみを少女の視線でとらえた「わたしが一番きれいだったとき」に触れている。

<わたしが一番きれいだったとき 街々はがらがら崩れていって とんでもないところから 青空なんかが見えたりした>

平易で、ぴんと背筋の伸びた日本語の使い手。戦後詩を牽引した日本の代表的女性詩人で、「現代詩の長女」とも呼ばれていた。その鋭く伝わるメッセージ性から、テレビドラマ「3年B組金八先生」など多くの媒体で引用された。中でも、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品にもなったアニメ「忘念のザムド」で引用された二つの詩「魂」「敵について」は秀逸だ。

<あなたはエジプトの王妃のように たくましく 洞窟の奥に坐っている あなたへの奉仕のために 私の足は休むことをしらない あなたへの媚(こび)のために くさぐさの虚飾に満ちた供物を盗んだ けれど私は一度も見ない 暗く蒼いあなたの瞳が 湖のように ほほえむのを 睡蓮のように花ひらくのを>

そんな一節で始まる「魂」はとても荘厳でエキゾチックだ。アニメの舞台となった異国っぽい国の雰囲気ととてもマッチしていた。一方、「敵について」はこんな下りがある。

<敵は昔のように鎧かぶとで一騎 おどり出てくるものじゃない 現代では計算尺や高等数字やデータを 駆使して算出されるものなのです>

でもなんだかその敵は私をふるいたたせない―と続く。戦後日本人の精神性をスパッと言い当てるような作者の鋭い視線を感じずにはいられない。

青春を戦争の渦中に過ごしたがゆえのくやしさやその先の希望。ともすれば理不尽な世情に妥協しない姿勢は、時にわれわれを叱り、奮い立たせる。もちろん、抽象的でどう解釈していいか分からない作品にも出くわす。そんな時には著者の作品「自分の感受性くらい」を思い起こす。

<自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ>

行き先を見失いがちな現代人に、遠く瞬く明かりを灯してくれる。2006年2月、多くの詩を残して東京の独り暮らしの自宅で他界した。享年79歳。


茨木のり子詩集 (岩波文庫)

茨木のり子詩集 (岩波文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/03/15
  • メディア: 文庫



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夏への扉 ロバート・A・ハインライン [文学]

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天才科学者のドクが発明したスポーツカー型タイムマシンに高校生が乗って時間をさかのぼり、父母の出会いを助ける―。おなじみの米映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が公開されたのは1985年だった。この映画の題材として大きなカギを握ったのが、タイムパラドックスである。タイムトラベルした先の過去を変えると、現代と矛盾が生じてしまう。父母がちゃんと結婚しないと、子どもである自分がなかったことになるからだ。

本書が出版されたのはそれより30年ほど前。タイムトラベル小説が直面する問題である「自分自身との遭遇」「タイムトラベルによる過去の改変」などを扱った初期のSF小説の一つである。舞台は1970年のロサンゼルス。恋人に裏切られ、発明品を親友に奪われた天才発明家ダンは、冷凍冬眠で30年後、2000年の世界に行ってしまう。そこで見つけたのが、かつて自分の頭の中で思い描いていた新型の機械。特許取得者は自分と同姓同名の人物。それは私のことなのか? 意を決したダンは密かに開発されていたタイムマシンに乗って過去に戻り、未来の結果を起こすべく手を尽くす。

さて、本書が世に出た1957年から見た2000年とはどんな世界なのか。冷凍睡眠から覚めたダンが新聞を手に取ると、こんな見出しが躍っている。「月世界定期便、双子座流星群のためなお空中に待機中」「人工授精母性団体、賃上げ要求」。残念ながら21世紀を17年経た今でもこんな世の中にはなっていない。ましてや軍事機密とはいえタイムマシンは姿もまだない。

今でも本書はSFファンの圧倒的な支持を受け、歴代SF小説ベストテンの常連である。そんな評価に背中を押され読んでみたが、コールドスリープでタイムリープするまでの親友や恋人とのやり取りが延々と続き、文庫本の冒頭130ページほど割いているのには閉口してしまった。好みの問題だろうが、なぜそんな多くの人たちに支持されるのか。一つはタイムパラドックスというSF小説の定番概念を確立したという文学的功績。そして親しい人たちに裏切られても決してあきらめず、ハッピーエンドを手にしたという痛快さだろうか。たとえ季節が冬であっても、家のドアから夏への扉を探し続けるのをあきらめなかった。タイトル「夏への扉」がそんな主人公の生き方を象徴している。


夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: ロバート・A. ハインライン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/01/30
  • メディア: 文庫



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管見妄語 とんでもない奴 藤原正彦 [エッセイ]

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理系学者で文章のうまい人は多い。夏目漱石の弟子で「天災は忘れたころに来る」で有名な物理学者の寺田寅彦に始まり、最近ではベストセラーを連発する生物学者の福岡伸一青山学院大学教授まで、枚挙にいとまがない。もちろん、へたな人も大勢いるだろうが、なぜだろう。やはり、理論をきちんと組み立てられる能力が、うまい文章構成に活かされているのだろうか。

この著者も、やはりうまい。数学者であり、父・新田次郎、母・藤原ていという作家夫婦の間に生まれた。幼少期に旧満州から母親と命からがら引き揚げた体験を持ち、成長した後は数学者として欧米で知己を得る中で、現代の日本に懸念を持つようになったという。本書は「週刊新潮」の連載コラムだが、鋭い視点で日本の迷走や、不穏に満ちた世界情勢を喝破する。

例えば「『平等』は小うるさい」の項。お茶の水女子大学に勤めていた時、国会で「国立大学であるながら男子を入れないのは差別ではないか」との質問が出て、学内は大騒ぎ。その様子を見ていた著者は喝破する。「女子大であることは本学最大の伝統であり個性であり生命である。伝統は合理性を超越する」と。

話題は世界情勢からキノコ狩りまで縦横無尽の題材を取り上げる。世界を覆う新自由主義を嗤い、学生のいたずらに自分の武勇伝を重ねて懐かしむ。簡潔な文体と豊富な知識・データを採り入れた説得性がこの人の本の魅力である。主張はややエキセントリックな印象を受けることもあるが…


管見妄語 とんでもない奴 (新潮文庫)

管見妄語 とんでもない奴 (新潮文庫)

  • 作者: 藤原 正彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/06/28
  • メディア: 文庫



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薄っぺらいのに自信満々な人 榎本博明 [新書]

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挑発的なタイトルが目を引いた。会社の管理職をしていると、表題のような社員は本当に手に負えない。仕事ができないのに、なぜあんなに自信過剰なのだろうか。特に平成元年前後のバブル入社の世代に多い。ちやほやされてきとんとした指導を受けずにきたのか、そんな世代ももう50代である。自信満々の理由を知りたくて、古本を購入した。

こんなタイプの人間は予想以上にいるのだそうだ。高校生を対象としたある調査では、85%が自分は平均より上だとみなしているという。「あり得ない勘違いが現実に生じている」と著者は指摘する。なぜ自信を過大評価するのか。それは、能力の低い人は、自分の置かれた状況に気づく能力も低いということだ。だから、自己認知能力を鍛えるトレーニングをさせて認知能力が向上すると、著しい過大評価傾向は大きく改善されるという。

逆にできる人は、うまくいかなくなるあらゆる可能性を想定して多面的に考えるから、「まだまだ自分には至らない部分、足りないところが多い」と謙虚に我が身を振り返ることができる。そして「もっとうまくなろう」「もっと努力しよう」という向上心が湧く。

これは、「ダニング=クルーガー効果」という認知バイアスといわれる。能力の低い人ほど楽観的で、高い人ほど不安が強くなる。ポジティブな性格は現代では歓迎されているものの、過剰にポジティブな人の危険性は困りものだ。だから、実業家・稲盛和夫氏は「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」との標語をかかげたそうだ。人間の本質を見抜く力もさすがである。

本書は引き続き、意識高い系やソーシャルメディア、コミュ力信仰などをキーワードに、現代社会に流れる没個性化やいびつな自己愛の気持ち悪さをあぶり出す。そして、ぼっち(一人)になって自分自身で考える力をつけることを勧める。所詮、「自信満々」も「意識高い」も根拠の薄い他人との比較である。どうしても自意識過剰にならざるを得ず、対人関係に疲弊してしまう時代にあって、思索を深め、情報を知識にする自分自身と対話する力が必要なのだろう。


薄っぺらいのに自信満々な人 (日経プレミアシリーズ)

薄っぺらいのに自信満々な人 (日経プレミアシリーズ)

  • 作者: 榎本 博明
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2015/06/09
  • メディア: 新書



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応仁の乱 呉座勇一 [新書]

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日本史上、最も有名な戦乱である「応仁の乱」。だが、その内容を答えよと言われれば窮する。なぜ戦乱が起こったのか、そして最終的にだれが勝ったのか。NHK大河ドラマの歴代最低視聴率記録を長年保持していた「花の乱」を取り上げるまでもなく、「応仁の乱」を扱った作品に成功例は少ない。そんな中、この手の新書としては異例の40万部以上のベストセラーになっているということなので買ってみたのだが、やはりややこしくてよく分からない(笑)。

読了後も判然としないのは、著者のせいではないだろう。この戦乱は、発端の当事者である細川勝元と山名宗全らも大乱になるとは予想しなかった。それが多数の大名を巻き込んだために、幕府もコントロールできなくなっていき、京都だけでなく各地で戦闘がくり返された。もちろん、「井楼」と呼ばれる物見櫓風の防御施設が導入されて攻防が長引くなどの戦術面での変化もあった。その結果が終結まで11年もかかることになってしまったのだ。

本書は、ほとんどの日本人が実態を知らないこの大乱を、最新の研究成果を踏まえながら実証的に検証してみせる。舞台の中心に据えたのは、奈良・興福寺の2人の僧である経覚と尋尊。それぞれが残した日記「経覚私要鈔」と「大乗院寺社雑事記」をベースに書いている。さらに応仁の乱を挟んだ歴史の流れに紙幅を割いており、あの時代の応仁の乱とは何かを解いていく。応仁の乱がもたらしたものは、諸国に新たなパワーバランスを生みだし、そして京都から避難した人々によって地方に文化を拡散したということも見逃せない。

多分、著者自身もこんなに売れるとは思わなかったのではないか。分かりやすさが求められる新書の中で、分かりにくい戦乱を豊富な資料を元に一つづつ解き明かしていく愚直さがディープな歴史ファンにささったのかもしれない。まさに応仁の乱のごとく、あれよあれよという間のヒット作に化けたのだろう。


応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)

応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)

  • 作者: 呉座 勇一
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/10/19
  • メディア: 新書



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定年後 楠木新 [新書]

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厚生労働省が今夏発表した2016年の日本人の平均寿命は、女性87.14歳、男性80.98歳。いずれも過去最高を更新した。世界では男女とも香港に次いで世界2位である。日本の平均寿命は延び続け、会社定年退職後の年月もまた長くなっている。まだまだ働ける60代。定年という「その日」を迎えてうろたえる人も少なくないだろう。

著者によると、8万時間説というのがある。60歳で定年して平均余命の84歳まで生きたとして自由時間はほぼ8万時間。一方で、21歳から60歳まで40年間の総労働時間が8万時間弱。つまり、これまで働いてきた時間分だけの余暇が定年後にあるというわけだ。仕事中毒のサラリーマンからすると、ある意味背筋が寒くなるような膨大な時間が待ち受けている。

大手生命保険会社に勤めているころから著者は定年後について準備を進めてきた。50歳からは会社員から転身した人たちを追うフリーライターを兼ねるようになり、定年後も「働く意味」をテーマに取材や執筆を続ける。その体験から、「黄金の15年」と呼ぶ60~74歳の時間を充実したものにするためには、50代からの助走が必要となるという。そして自分の「死」を意識して逆算で考え、幼少期にやりたかったことや会社員時代に培った能力を活かすよう設計してみることが重要だと説く。身も心も会社人間であることをやめ、社会とのつながりを持てと。

もちろん、現在では年金支給額の引き上げに伴い、65歳までの定年延長や再雇用制度の拡充が多くの企業で進んでいる。働ける期間が伸びることはいいことだが、それだけ「第二の人生」への助走が鈍りはしないだろうか。

それにしても、本書には、定年にまつわる本が次々と引用され、こんなにもあったのかと驚いた。重松清「定年ゴジラ」、関沢まゆみ「隠居と定年」、渡辺淳一「孤舟」、津村記久子「給水塔と亀」…。ページをめくると身につまされるかもしれないが、手に取ってみようか。


定年後 - 50歳からの生き方、終わり方 (中公新書)

定年後 - 50歳からの生き方、終わり方 (中公新書)

  • 作者: 楠木 新
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/04/19
  • メディア: 新書



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万葉集から古代を読みとく 上野誠 [新書]

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正直言って本の帯を見て手に取った書である。「『誰そ彼』から『君の名は。』へ つながる古代と現代」。序章では昨年夏大ヒットし、万葉集の歌がモチーフになったアニメ映画「君の名は。」が紹介されている。著者は万葉集研究者の第一人者。であるから、知人から「いちおう見ておくべきだ」との助言を受けたという。当の本人は普段見ないアニメ映画を見て「日本も捨てたもんじゃない」と感嘆したようだ。

「誰そ彼と 我をな問ひそ 九月の 梅雨に濡れつつ 君待つ我を」

これが「君の名は。」の重要な鍵を握る歌だ。薄暗い夕方ですれ違う人の顔がよく見えない「誰そ彼(たそがれ)」時。そんなたそがれの中で主人公の2人は「君の名は」と呼び合う。そんな映画だった。

それはさておき、著者は万葉集についての豊富な知識と資料を駆使し、なぜ7ー8世紀の歌が今に残り、息づくのかを解説している。最も敬意を表しているのが、「銀(しろかね)も 金(くがね)も玉も なにせむに 優れる宝 子に及(し)かめやも」の歌で知られる山上憶良だ。無位無官から、その漢文の才によって見出され、遣唐使となって唐に渡り、貴族となって地方官を歴任した人物である。その漢文における作文能力は、同時代において高い評価を受けていたものとみられるという。

和文の歌に漢文の序をつける手法を取った山上憶良は、日本文学史上はじめて、子どもへの愛を綴った歌人だ。それは中国詩の子どもの文学を手本として、はじめて可能になった。彼は、漢文で書かれた序を通じ、己の子への思いを自由に語る免罪符を得たのであった。「和魂漢才」の源流を憶良に見ることができると著者は主張する。8世紀前半に生きた憶良こそ、日本型知識人の源流・原型だというのだ。

それにしても、「君の名は。」目当てで書店の本書を手にした身からすると、読み込むのにかなり労力がかかった。万葉集の一通りの知識がある人にはお薦めするが、そうでないと読み続けるのは骨が折れるかもしれない。ただ、万葉集を一言で言うと、「7世紀と8世紀を生きた日本人の、声の缶詰でしょうか」と結んでいる。その言葉にはうなずいた。


万葉集から古代を読みとく (ちくま新書1254)

万葉集から古代を読みとく (ちくま新書1254)

  • 作者: 上野 誠
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2017/05/09
  • メディア: 新書



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隣国への足跡 黒田勝弘 [ノンフィクション]

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今夏公表された日韓共同世論調査の結果を見ると、ざっくり言って両国とも相手国に対して悪い印象を持っていると答えた人は半数。良いは4分の1にとどまっている。韓国は教育を含め、社会的に反日の空気があり、そんな空気を読み取った日本人の「嫌韓」意識も根強い。そのムードも近年は訪日韓国人観光客の増加で少しは和らいでいると聞くが、根本的に両国が急速に良好な関係になる材料は今のところ見当たらない。

著者は産経新聞ソウル駐在客員論説委員で、ソウル在住35年の新聞記者だ。1941年生まれだから、人生の半分近くを韓国で過ごしていることになる。そんな著者が主に取材の実体験をもとに日韓の近現代史をひもといてみせる。日韓併合前の閔妃暗殺事件、戦後日本で起こった金嬉老事件、金賢姫による大韓航空機爆破事件など、日本人の耳目を集めたエピソードの持つ意味を解説してくれる。

韓国の徹底的な反日教育の背景には、35年続いた日本の韓国併合があると著者は指摘する。戦時中の京城(現ソウル)の映画館では、日本軍の戦勝場面を伝えるニュース映画に観客が熱狂した。日本人と同化してしまったのだ。日本人になりつつあった韓国人のアイデンティティーを取り戻し、元の韓国人にするためには日本を全否定する反日教育が必要だったという。

そもそも地政学的に日本は韓国と無縁ではいられない。前世紀から振り返っても、朝鮮半島の利権を奪い合った日露戦争と第2次世界大戦、そして米ソ覇権をかけた朝鮮戦争と、それぞれに日本は深くかかわらざるを得なかった。それの状況は今後も変わらないだろう。

そんな韓国に住む日本人の居心地の悪さも著者は正直に語る。日韓関係を語る時、双方の視点とその先に見える風景は異なって当然だ。その風景が近くなることはあっても同じになることは今後もありえないだろう。「しかし、お互い隣に存在するという地理的環境だけは不変なのだ。だから逃げ出すわけにはいかない」と著者は言う。そして隣国との付き合いに悩まされ続けるのである。


隣国への足跡 ソウル在住35年 日本人記者が追った日韓歴史事件簿

隣国への足跡 ソウル在住35年 日本人記者が追った日韓歴史事件簿

  • 作者: 黒田 勝弘
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/06/23
  • メディア: 単行本



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