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騎士団長殺し 村上春樹 [文学]

東日本大震災から6年がたった。1万5千人以上が亡くなり、今も12万人が自宅に戻れない。これだけの未曾有の大災害の後である。物語の中で「大きな嘘」がつけなくなった。ファンタジーの世界でいくら大活躍をし、世界を救おうとも、現実の世界はまったく救済されない。だから、われわれの日常空間の延長線上で「小さな嘘」を語ることが、近年のストーリーの主流になってきているような気がする。

日常と異空間がつながり、融合するマジックリアリズム文学の旗手である村上春樹がもてはやされるのも、こうした世相が反映しているのだろうか。4年ぶりの書下ろし長編となる本作も、その手法がいかんなく使われている。

妻に離婚を言い渡された肖像画家の主人公が、友人の父が建てた小田原市郊外の家に落ち着く。そこで謎めいた体験をすることになる。その正体は「騎士団長殺し」のタイトルが付いた絵と、近隣の雑木林に掘られた穴だ。絵の中の登場人物が主人公のもとを訪れたり、主人公が穴を通してあちらとこちらの世界を往来したりする。

村上作品には異界との通路が用意されている。「海辺のカフカ」の森、「ねじまき鳥クロニクル」の井戸などだ。今回は夜中に鈴の音が聞こえる「穴」である。いずれの作品においても主人公は、その通路を通る試練を与えられ、それを達成することで成長し、再生を果たす。100パーセントリアルで描かれた「ノルウェイの森」にも通路が用意されていれば、主人公の再生は早まったのではないだろうか。

第1部、第2部の2部構成で、物語も一応の決着を見たが、冒頭の顔のない男が出したリクエストは果たしていない。「1Q84」や「ねじまき鳥クロニクル」のように、将来3巻が出てきそうな予感がなくはない。


騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/02/24
  • メディア: 単行本




騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/02/24
  • メディア: 単行本



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