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僕らが毎日やっている最強の読み方 池上彰、佐藤優 [ノンフィクション]

文芸評論家の故小林秀雄氏は若いころから胃が悪かった。医者に「たばこをやめれば治る」と言われて禁煙を決心し、病院のテーブルにたばことライターを置いたまま出た。ちなみに、そのたばこを手にした医者が「忘れ物だ」と追いかけて来たそうだが。禁煙のイライラから文筆活動に支障が出ないようになるまでに4カ月かかったと、本人が講演で語っている。頑固な批評家の意志の強さを感じるエピソードだ。

意志の強さでは、この人も匹敵するかもしれない。作家で元外交官の佐藤優氏だ。本書は本や新聞などから日々どうやって情報収集しているか、ジャーナリスト池上彰さんとの対談を通じて読者に披露してくれる。

その中で目を引いたのは、読書などインプットの時間として1日4時間確保するために、酒をやめたというくだりだ。50歳を過ぎてから人生の持ち時間を考えるようになった。酒を飲んだら酔いがさめるまで読書や仕事ができず、それがもったいないと。「酒を飲むのは人生の無駄だ」とまで言い切る。池上さんももともと下戸で、酒をあまりたしなまないから、夜の仕事ははかどるのだそうだ。

読書ブログをつづるほどの本好きでも、好きの度合いでは酒の方が上回る筆者である。多い月には500冊読みこなすという佐藤さんの主張はなるほど、そういう「犠牲」を払ってのことなのかと、敬意を表するしだいだ。真似をして1日禁酒して読書したら、ページの進み具合が著しかった。だが、翌日にはあっさりと酒の誘惑に負け、本を枕にうたたねしてしまった。

何事も意志の強さと、何かをなしえるには大きな犠牲と引き換えにする覚悟がいるのだと痛感した。

僕らが毎日やっている最強の読み方;新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意

僕らが毎日やっている最強の読み方;新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意

  • 作者: 池上 彰
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2016/12/16
  • メディア: 単行本



60分で名著快読 徒然草 [文学]

文部科学省が先日公表した次期学習指導要領改定案で、聖徳太子は「厩戸王(うまやどのおう)」の表現になるそうだ。歴史学的に一般的になってきた呼称にそろえるという。近年の学術研究を踏まえて、社会の授業や教科書で取り上げていた歴史用語が変わることはままある。

「徒然草」の作者・兼好法師もそうだろう。かつては「吉田兼好」と呼ばれていた。今の教科書では「兼好法師」または「兼好」となっている。歴史研究者によると、兼好は吉田姓を名乗ったことはなく、江戸期になって勝手に「ご先祖様」に仕立てた吉田姓の神官の影響だったということが分かっている。

名前はともあれ、「徒然草」の評価は今の世になっても下がることはない。それは、どんな時代にも通用する処世訓がちりばめられているだけでなく、人生のちょっとした喜怒哀楽が短い話の中に簡潔に凝縮されているからだろう。特に閉塞感が漂う現代では、どこかに息苦しさを感じている。そんな私たちへの人生の処方箋として存在感を増している。本書は、そんな徒然草のエッセンスを分かりやすく解説してくれる。

げにげにしくところどころうちおぼめしき、よく知らぬよしして、さりながら、つまづまあはせて語る虚言は、恐ろしきなり(いかにも本当らしく、ところどころはぼかして、よく知らない風をして、そのくせ要所要所の話のつじつまを合わせて語る嘘は、罪深く恐ろしい)

SNSが拡散する現代の偽ニュース。兼好さん、800年後にも通じる指摘、さすがである。

60分で名著快読 徒然草 (日経ビジネス人文庫)

60分で名著快読 徒然草 (日経ビジネス人文庫)

  • 作者: 山田 喜美子
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2016/10/04
  • メディア: 文庫



置かれた場所で咲きなさい 渡辺和子 [エッセイ]

立春を過ぎたとはいえ肌寒い2月12日、JR岡山駅西口のバス停は長蛇の列ができていた。昨年(2016年)末に亡くなったノートルダム清心学園理事長・渡辺和子さんの学園葬が開かれるホテル向けのシャトルバスを待つ人たちだ。事前に公共交通機関での来訪を学園が呼び掛けていたからホテルの駐車場は空きが目立ち、「岡山県民は律儀だ」と参列者が苦笑いしていた。

ベストセラーとなった故人の著書を書棚から取り出した。渡辺さんは9歳の時、2・26事件で陸軍教育総監だった父親の錠太郎氏を目の前で殺害された経験を持つ。30代で岡山市のノートルダム清心女子大学長に就任。修道者、教育者として激動の人生を送った。理不尽な出来事だらけの生涯を振り返りながら、それでも「人はどんな場所でも幸せを見つけることができる」とのメッセージを送る。

些細な不満も心の持ちようで満たされることもあると渡辺さんは指摘する。大学にあるエレベーターを例に出す。扉が閉まるまでのたった4秒。それすら待てずに「閉」のボタンを押す自分に気づく。以来、その待つ間を祈りにささげた。小さな祈りを唱える習慣を得たことがうれしくなったと書いている。

本のタイトルは、米国の神学者ラインホルド・ニーバーの詩からとっている。書き出しはこんな文だ。

Please bloom where God has placed you.
Rather than give up, make the best of your life and bloom like a flower.

(神が置いた場所で咲きなさい。諦めずベストを尽くし、花のように咲きなさい)

学園葬には、父・錠太郎氏を殺害したとされる青年将校の実弟も神奈川県から駆け付けたと新聞が報道していた。渡辺さんとは恩讐を乗り越え、30年にわたり交流を続けてきたという。渡辺さんほど乗り越えなければならない不条理は持ち合わせなくても、誰でも「なんで私が」と唇をかむ瞬間がある。そんな人たちに救いの手を差し伸べてくれる本として読み継がれるだろう。

置かれた場所で咲きなさい

置かれた場所で咲きなさい

  • 作者: 渡辺 和子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2012/04/25
  • メディア: 単行本



この世界の片隅に こうの史代 [漫画]

現在公開中の同名のアニメーション映画の原作漫画である。映画の方は昨年(2016年)11月にわずか63館でスタートしたが、SNSで評判が広がり、累計上映館は300館、興行収入も20億円を突破した。小規模上映映画としては異例のヒットである。このままいけば、広島原爆の日や終戦記念日のある今年8月まで公開が続くかもしれない。

太平洋戦争末期の広島・呉を舞台に、悲惨な時代をほがらかに生きる女性、すずの物語だ。18歳で見ず知らずの海軍文官の妻になり、節約の料理法や苦手な裁縫に挑戦する。食糧難に悩まされながらも、道端で摘んだ野草でご飯をつくるすずは楽しげでもある。だが、そんな生活も空襲や原爆に奪われる。

そんな「戦争作品」がなぜここまで受け入れられたのだろうか。作品の中に出てくるのは、すずとその家族の日常を丹念に描いた世界だ。声高に反戦を掲げることなく、ありのままのエピソードを丁寧に表現し続けることで、戦争の持つ暴力性を浮かび上がらせる。それは不意に起きた大災害に置き換えることもできるし、われわれが現実で体験しているさまざまな不条理ととらえることもできる。それぞれの読者や観客が普遍的なテーマとして読み取ったのではないか。

とはいえ、原作者のこうのさんは、呉に住み戦火を生き抜いた亡き祖母の体験を残したいという思いがあったという。国会図書館や郷土資料館で当時の雑誌や新聞を集め、家具や服装などを細かく調べた。

映画が始まった折、ネットにユーザーが描いたイラストがアップされた。すずは戦後をたくましく生き、現在は90歳超。最年長のカープ女子として日本シリーズを応援する。主人公を身近に触れさせるこの作品は、戦争を遠い歴史の一幕とせず、今生きているわれわれとつながっていることを実感させる。戦争を単なる悲惨な時代と目を背けることなく、記憶を後世につないでいくことができるなら、その意味は大きい。

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

  • 作者: こうの 史代
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2008/01/12
  • メディア: コミック



ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか 藤代裕之 [ノンフィクション]

「フェイク(偽)ニュース」という言葉が世界を駆け巡り始めたのは、昨年(2016年)の米大統領選がきっかけだ。「ローマ法王がトランプを支持した」「反トランプデモの参加者は現金を受け取っている」―。こうしたニュースはすべて作り物の記事だが、結果的にトランプ大統領誕生を後押しした要因の一つになった。日本でも昨年11月、大手ネット企業のまとめサイトに「肩こりの原因は幽霊」などと書いたでたらめ記事が大量に流れていたことが分かり、運営会社が陳謝に追い込まれた。

ネットジャーナリズムの第一人者の筆者がこの本を執筆したのも、デジタル化に伴うニュースの質の劣化を問題視したためだ。

古今東西、デマや流言は古くからあり、口コミで拡散されていった。筆者はフェイクニュースがなぜ生まれたかを豊富な業界知識を駆使して解説する。それを一言で言えば、ヤフーを代表する「プラットフォーム」と呼ばれるニュース流通基盤の登場が大きく関与している。

かつては新聞社が読者へ質の高いニュースだけを届けてきたが、デジタル化の時代にその流通の役割をプラットフォームが受け持つようになった。当初は「うちは新聞社の記事を届ける新聞配達少年に徹する」と言っていたのが、自らもコンテンツをつくるようになり、責任の所在があいまいになった。その間、プラットフォームと称するサービスはいくつも生まれ、玉石混交のニュースを生み出す温床になっていく。そしてついに「誰も責任を持たない荒野のような状況」が生まれたのである。

SNSの影響も見逃せない。自分が好む話題や意見が増幅され、他者の意見を受け入れなくなることで、フェイクニュースがはびこる環境が生まれた。

ニュースはわれわれの生活の糧である。心地よくても健康を害する糧であれば、口にしないに限る。その目利きを鍛えないと、われわれはうまく生きていけない。そんな時代なのだろう。

ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか (光文社新書)

ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか (光文社新書)

  • 作者: 藤代 裕之
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/01/17
  • メディア: 新書



現代うた景色 河野裕子の短歌案内 河野裕子 [文学]

歌人の河野裕子さんが、有名歌人から投稿のものまでお気に入りの短歌を選び、折々の季節や世相といった現代の風景に重ね合わせて解説するアンソロジー(選集)である。女性の筆者らしく、失恋、家族、老いなど、女の生き方に触れるテーマが目立つ。

たとへば君 ガサッと落ち葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか 河野裕子

若き日の選者自身の歌は、命令形でストレートに思いを伝える恋の歌だ。臆病でナイーブな現代の若者の恋とは対照的な力強さを感じる。

フェミニズムの正しさゆえの空しさが手を汚さないやつにわかるか 久々湊盈子

女性に降りかかってくる親の介護をずばりと本音で切る歌。「過酷なくらいに現実を写している」と評する。

ページをめくっていくうち、こんな歌を見つけた。亡くなった子を想う歌だ。

汝(なれ)というわが子は一人撫でやりし手が覚えいる頭の形 小石薫

「逆縁」ということばを河野さんは紹介する。親より先に子供が死んだ場合に使われるそうだ。「残された親にとっては、自分が生きている限り、死んだ子供の時間は生き続ける」と語る。

先月、島根県益田市の国道で起きた事故が新聞に載っていたのを思い出した。ボランティアで児童の通学を見守っていた男性が、突っ込んできた軽トラックにひかれ死亡した。男性は33年前、小学2年生だった次女を交通事故でなくし、それを機に子どもたちの見守り活動を続けていたという。ずっと愛娘の「撫でやりし」頭の感触が自分の命が絶える日まで残っていただろう。

本を通じて訴えてくるのは、生きる喜びやつらさ、身近な人の愛。何気なく存在する日常が、河野さんが選び出した短歌を通して見ると、愛おしく思える。

河野さんは終戦直後の1946年生まれ。生の実感を表現する作風で、戦後の女性短歌界をけん引してきた。夫も歌人の永田和宏さん。晩年は乳がんと闘病し、その境遇を多く歌に詠んだ。2010年に死去。

河野さん自身の最後の歌が巻末の解説に載っていた。

手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が 河野裕子

歌がどれだけ世界を豊かにするか、身にしみてくる。

現代うた景色-河野裕子の短歌案内 (中公文庫)

現代うた景色-河野裕子の短歌案内 (中公文庫)

  • 作者: 河野 裕子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/07/23
  • メディア: 文庫



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