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検索禁止 長江俊和 [ノンフィクション]

少し日にちが過ぎてしまったが、4月24日はミステリー小説ファンにとって特別な日だ。推理作家の横溝正史が名探偵・金田一耕助を生み出した日である。終戦直後の1946年、疎開先の現岡山県倉敷市真備町岡田で執筆した雑誌連載「本陣殺人事件」で初登場する。この年4月24日の横溝の日記に「新しい登場人物に加えた」と記されている。

もともと横溝正史は神戸市で生まれた。両親はともに今の倉敷市の良家の育ちでともに配偶者がいた身だが、旧家同士がいがみ合う中、駆け落ちして郷里を離れた。正史は腹違いの兄弟たちと生活をともにする。まさに横溝ワールドの世界そのものである。

筆者はミステリーの金字塔「リング」や「東海道四谷怪談」「エクソシスト」など古今東西のフィクション作品の裏側にひそむ史実をていねいに取材し、解き明かす。そのフィールドは映画・小説・音楽だけでなく、都市伝説やネットの世界まで広がっていく。そして表題の「検索禁止」のタイトルが示す禁忌の物語が浮かび上がっていくのだ。

「人はなぜ、禁止されたものに惹かれてしまうのだろうか」と著者は問いかける。禁止されているということは、願いがかなわないという事態である。その禁じられた欲求に希少性が生まれ、特別な「価値」が発生する。禁止されて制限されたことをどうしても実行したくなる。これを心理学用語で「心理的リアクタンス」と呼ぶそうだ。

検索ワードに導かれるように、次々と忌まわしい現実がひもとかれる。時に思わず本を閉じたくなる陰惨なストーリーに目を背けそうになった。読むんじゃなかった。そう思いながらもページをめくり続けてしまう。それこそが心理的リアクタンスなのだろう。


検索禁止 (新潮新書)

検索禁止 (新潮新書)

  • 作者: 長江 俊和
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/04/14
  • メディア: 新書



ジャガイモの世界史 伊藤章治 [ノンフィクション]

昨年の北海道産ジャガイモの不作を受けてポテトチップスが店頭で品薄になる「ポテチショック」が全国に広がっている。ジャガイモの国内生産量の8割を占めていることから、原料不足に陥った大手菓子メーカーが販売休止や売れ筋以外の商品種類を絞り、買いだめに走る消費者が急増。品薄に拍車をかけたそうだ。

そんなニュースに触れ、書棚から取ったのが本書である。記録によると、南米原産のジャガイモが地球を半周して日本に入ってきたのは、1598年の慶長年間の長崎。やせた寒冷地でも育ち、栄養価も高いことから栽培地図は日本列島を北上。北海道開拓の歴史とともに北の大地に広がっていき、一大産地を築いた。江戸時代後期の天保の大飢饉ではジャガイモのおかげで餓死を免れた人も諸国で多かったため、「御助薯」とも呼ばれた。

ヨーロッパでも戦争や飢饉など歴史の折々で庶民の胃袋を満たし、「貧者のパン」と呼ばれた。1940年代のアイルランドの大飢饉はそのジャガイモの不作による大惨事で、海外移民まで出した。米国への移民の中からは、J・F・ケネディーとロナルド・レーガンという二人の大統領を輩出したというから歴史は面白い。

元新聞記者の作者は国内外のジャガイモゆかりの地を訪ね、丹念な取材をもとに書いている。歴史の逸話や文学作品までフィールドは幅広い。日本の「ポテチショック」は飢饉とは遠い現象ではあるが、人とのつながりの深い食物であることを裏付ける。麦、コメ、トウモロコシとならぶ「世界の四大作物」と呼ばれる所以だ。

馬鈴薯の花咲く頃となれりけり 君もこの花を好きたまふらむ 石川啄木


ジャガイモの世界史―歴史を動かした「貧者のパン」 (中公新書)

ジャガイモの世界史―歴史を動かした「貧者のパン」 (中公新書)

  • 作者: 伊藤 章治
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2008/01
  • メディア: 新書



一九八四年 ジョージ・オーウェル [文学]

4月4日に米国内外で一斉に上映された映画がある。本書「一九八四年」の映画版だ。全体主義国家による管理社会の恐怖を描いた。事実をねつ造し、絶対服従を求め、外敵への憎悪をあおる―。その状況が、今のトランプ政権とそっくりであることから、政権に抗議する人たちの呼びかけで広まった。

英国の作家が1949年に書いた近未来小説は世界的に売れている。日本でも大統領就任から1カ月で4万部の増刷になったという。70年近く読み継がれた本書は時代がダークサイドに入るたびに売れる傾向にあったそうだ。

契機となったのは、大統領就任式の動員数を巡って発した「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)」だ。本書でも支配者に不都合な事実は新聞や雑誌などあらゆる記録から抹消され、書き換えられてなかったことになる。矛盾する二つの事柄を同時に信じる「二重思考(ダブルシンキング)」を強要される。

大衆の分裂をそそのかす社会に危機感を持った人たちが、この憂鬱なディストピア小説を手にするとは何とも気がめいる話だ。体制に服従することに不満を抱いた主人公は、奔放な美女との出会いをきっかけに反政府地下活動に加わろうとするが…。希望がない社会ほど魅力のないものはない。


一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

  • 作者: ジョージ・オーウェル
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2009/07/18
  • メディア: ペーパーバック



雨のことば辞典 倉嶋厚・原田稔 [エッセイ]

もう西日本の桜はピークを過ぎるころか。あいにく週末ごとに天気が崩れるので、花見を予定している人たちはやきもきしているだろう。ようやく咲いたと思えば、桜の花びらが雨に洗われて散っていくのは何とももったいない。

雨と桜にかかわる言葉も少なくない。「花の雨」といえば、桜の花が咲くころに降りかかる雨。「花雨」「桜雨」とも言う。「桜ながし」は鹿児島地方の方言。「流し」は何日も降り続く雨。美しく咲いている桜の花を散り流してしまう無情の雨なのだが、あわれ深い響きがある。

本書は元鹿児島地方気象台長の倉嶋厚さんとエッセイストの原田稔さんの共著で、雨にまつわる言葉を約1200語集めた。世界でも多雨地帯であるモンスーンアジアの東端に位置する日本は、世界平均の約2倍に相当する降水量がある。台風、梅雨前線、秋雨前線、温帯低気圧など、日本の上空には「空の水道」が集中しているという。だからこそ、雨の言葉が多いのだ。

春の花の雨に始まり、木々の青葉からしたたり落ちる夏の青時雨(あおしぐれ)、晩秋に降る冷え冷えとした冷雨(れいう)…。日本の雨は四季のうつろいとともにその様相が千変万化する。それに伴い、陰翳深く美しい言葉が数多く生まれてきたのだ。

春愁や葉がちとなりし花の雨 日野草城


雨のことば辞典 (講談社学術文庫)

雨のことば辞典 (講談社学術文庫)

  • 作者: 倉嶋 厚
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/06/11
  • メディア: 文庫



魂でもいいから、そばにいて 3・11後の霊体験を聞く 奥野修司 [ノンフィクション]

怪異譚(たん)の収集で知られる柳田国男の「遠野物語」には、岩手県遠野に伝わる神々や精霊、妖怪などが登場する話が119話収められている。この中で、明治期の三陸大津波で妻を失った福二という男が、津波で亡くなったはずの妻と出会う話がある。しかも、結婚する前に交際していた元彼と連れ立って。妻は「今はこの人と夫婦になっている」と言い、立ち去っていく。福二は妻が別れた男にまだ思いを寄せているのではないかと悩み続けていて、そんな幻想を見たのだろうか。

迷信やフォークロアが似合う東北にはこうした怪異譚が多い。「津波に流されたはずの祖母が縁側に座っていた」「枕元に亡夫が立っていた」-。こんな話が、東日本大震災後の東北のあちこちで聞かれるようになった。そんな不思議な体験をした人々を探し出し、インタビューした記録が本書である。

霊的体験で最も多いのが、亡くなった家族や恋人が夢に現れるという現象だ。リアルでカラーの夢で、何らかのメッセージを受け取る人も少なくない。その次に多いのは「お知らせ」といわれる現象。死の直前にお別れのあいさつに来たといったものだ。また、使えなくなった携帯電話から「ありがとう」のメールが届いたりするのは、現代ならではの怪異譚である。

彼らはこうした体験を怖いとは思わない。むしろ、「霊になっても抱いてほしかった」と再会を心待ちにしている。震災で突然失った人との物語をどうにかして紡ぎ直そうとする体験者たちの真摯な姿がそこにある。その苦境を乗り越えるための足場でもあるのだろう。

もちろん、こうした体験談が科学的だとは筆者も思っていない。科学では再現性のない自然現象は対象にならないからだ。だが、それは重要なことではないという。亡くなった人に会った、声を聞いたという霊的体験が「事実」なら、その体験を素直に受け止めることからスタートすべきだと。被災者への優しいまなざしがそこにはある。


魂でもいいから、そばにいて ─3・11後の霊体験を聞く─

魂でもいいから、そばにいて ─3・11後の霊体験を聞く─

  • 作者: 奥野 修司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/02/28
  • メディア: 単行本



日本奥地紀行 イザベラ・バード [文学]

日本の鎖国が解かれた明治期は、西洋から大勢の外国人が訪れ、東洋の端の国を「発見」していった時期である。米国出版社通信員として来日したギリシャ生まれのラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、青暖簾が下がる店や青い着物を着て微笑む日本人を見て「神秘的な青い国」だと評した。最近、注目を浴びているのは、英国人女性旅行家イザベラ・バードだろう。漫画誌に連載されている「ふしぎの国のバード」(佐々大河、ビームコミックス)の主人公だ。青い目が見た未開の日本が生き生きと描かれている。

本書は今から140年前の1878年、横浜から蝦夷(北海道)まで、日本人すらも踏み入ったことのない奥地への旅を敢行したバードの4カ月間の旅の記録である。彼女の目的は、滅びゆく日本古来の生活を記録に残すことだ。文明開化に湧く日本は急速な欧米化を進めている。物質文明が浸透し、生活様式や考え方も変わっていく。

旅は当時のメーンルートだった奥州街道を避け、日光から日本海回りでアイヌの住む北海道を目指す。お供は通訳兼従者の伊藤鶴吉1人だけ。貧弱な馬と悪路に難儀し、外国人を見るのは初めてという村人の好奇心に閉口し、さらには奥地の不衛生な生活から生じる蚤の大群や悪臭、皮膚病にかかった大勢の村人に悩まされる。食料の調達にも事欠く日々が続く。もちろん、それらを忘れさせるほどの美しい日本の風景が彼女を楽しませ。

文明開化前の農村と生活様式に飽くなき好奇心を示し、忍耐強く綴った日記は、現代人では考えられない日本の光景を伝えてくれる。その視線に典型的な欧米人の偏見のようなものは感じられない。実際、通訳の伊藤がアイヌ人を「彼らは犬以下だ」という発言を厳しくたしなめる。眼病を患う村民に惜しげもなく薬を与える。世界各国を冒険し、民族の多様性を目の当たりにした彼女ならではの考え方だろう。

140年たった今、彼女が見たり体験したりしたものは、いくらかの自然しか残っていない。日本は跡形もなく西洋化され、都市化された。


日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)

日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)

  • 作者: イザベラ バード
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2000/02
  • メディア: 文庫



ふしぎの国のバード 1巻 (ビームコミックス)

ふしぎの国のバード 1巻 (ビームコミックス)

  • 作者: 佐々 大河
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/エンターブレイン
  • 発売日: 2015/05/15
  • メディア: コミック



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