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何者 浅井リョウ [文学]

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もうじき6月。大学生らの就職活動が解禁になる。今年も学生が優位な超売り手市場だといい、既に内々定を出して事実上の採用活動を終えた企業も少なくないという。ここ数年、採用試験の面接官をしていると、学生時代に読んで印象に残った本に本書を挙げる若者が多い。就職活動をテーマにした内容に共感するのだろう。

ツイッターやフェイスブック、ウェブテスト…。現代の就活ツールを駆使して企業とつながり、ネットで悩みを打ち明け合う。はるか昔に就活生だった身には隔世の感がある。内定をもらえずにいる主人公は、ルームメートら就活仲間や演劇やアートなどわが道を行く仲間を冷やかに観察し続ける。広い人脈や海外渡航体験を自慢したり、前向きさを強調したり、自分を大きく見せようとする態度にへきえきとする。その気持ちが本書で重要な役割を果たすツイッターの140字以内の短文に打ち出される。

だが、時代が変わっても自分の人生を左右する就職活動を通じ、自分探しをする若者の姿は変わらない。果たして自分は「何者」なのか。広い社会の海原にこぎだし、成長と挫折を初めて味わう感情は、かつての就活生だったわれわれにも共感できるところが多い。

著者は戦後最年少の23歳の時、本作で直木賞を受賞した。就職活動の経験を題材にしたという。昨年(2016年)の秋に映画化され、今月DVDが発売になった。レンタルで見たが、あらすじは原作と同じ。映像の中のツイッター画面の見せ方は工夫を凝らしていた。続編にあたる「何様」も昨夏出版されている。就活の季節、手に取ってみようか。



何者 (新潮文庫)

何者 (新潮文庫)

  • 作者: 朝井 リョウ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/06/26
  • メディア: 文庫



銃・病原菌・鉄 ジャレド・ダイアモンド [ノンフィクション]

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先のフランス大統領選で完敗はしたものの、マリーヌ・ルペン氏率いる極右政党「国民戦線」は、主流派への歩みを確実にした。移民の入国制限や安全のための取り締まり強化、そして保護主義の推進といった考えは、経済低迷を背景にすんなりと受け入れられた。いまや自国優先主義は米国のトランプ政権を挙げるでもなく、世界を席巻している。その文脈の中でたびたび表面化するのが、民族差別だ。他者を「劣等民族」として排斥するデモやネットの書き込みは、日本でも珍しくない。

では、生来劣等な民族というものが本当にあり得るのか? その素朴な質問に答えてくれたのが、本書である。著者があるニューギニア人にこう尋ねられる。「あなたがた白人は、沢山のものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私達ニューギニア人には自分のものといえるものがほとんどない。それは何故だろうか?」。持つものと持たざるもの。世界の不均衡はどこから来たのかという壮大な謎を、進化生物学、生物地理学、文化人類学、言語学など広範な最新知識を駆使して解き明かす。

著者は、白人の遺伝子が優れているからだという短絡的な回答をせず、たまたま白人の住む環境が優れていたからであると結論づける。そして白人が他世界を征服する際に、最も破壊的な影響を与えたものが、題名に出てくる銃・病原菌・鉄だと考察している。

ヨーロッパ人に恩恵を与えたユーラシア大陸は、同じような気候条件下で東西に広がっている土地だったために、家畜化した動物や農業化した植物を簡単に別の土地に広めることができた。家畜化された大型動物と穀物によって農業が発達すると、食料と富の余剰が生まれ、人口が増えて専門家の出現を可能にしたため、テクノロジーが発達した。同時に家畜から移った細菌によって免疫力がつき、新大陸征服時には銃や細菌が威力を発揮した。

そして同じような環境に恵まれていた中国が先に世界の覇権を握れなかったのかも解説する。ある時期まではヨーロッパ諸国を超える文明を開発していたのだが、自国の統一のみにエネルギーを費やし他国との交流を絶ってしまい、海外渡航も制限してしまったので他地域の制覇も行われなかったのだとしている。

さて、こうした地の利を生かして世界をずっとリードしてきた欧米を見ていると、筆者の別の著書「文明崩壊」を思い起こす。文明はわずかの決断の誤りによって、もろくも崩壊することを看破した。文明国の行方はいかに。


文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

  • 作者: ジャレド・ダイアモンド
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2012/02/02
  • メディア: 文庫



文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

  • 作者: ジャレド・ダイアモンド
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2012/02/02
  • メディア: 文庫



日本ノンフィクション史 武田徹 [新書]

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若いころ、沢木耕太郎の「深夜特急」を熱心に読んだ。香港、マレー半島を経て、インド・デリーからは英国・ロンドンまでバスだけを使って一人旅をする物語だ。さまざまな人たちやトラブルに出合いながら、気ままな旅を楽しむ。筆者自身の旅行体験に基づいていたこの紀行小説は日本の若者に大きな影響を与え、バックパッカーブームの一翼を担った。まさにノンフィクションの金字塔ともいえる作品だろう。

今でこそ書物や映像作品のジャンルとして確立している「ノンフィクション」だが、その歴史は意外と浅い。その言葉が世に登場するのは、終戦間もない1949年だという。伝記、旅行記、探検記、手記、手紙、日記といった「記録文学」の総称として使われているが、このころノンフィクションは文字通り「フィクションではないもの」として分類されていた。小説をはじめとするフィクションが文学のメーンストリームであり、その他という位置づけだったのであろう。

石川達三や林芙美子らによる中国での従軍報告をはじめ、戦争や革命の現場を写し取った「ルポルタージュ」が、社会派の書き手によってテーマを広げていった。そして日本のノンフィクションを語る時に欠かせないのが大宅壮一だ。雑誌ジャーナリズムの草分けとして活躍しただけでなく、東京の雑誌専門図書館「大宅壮一文庫」や「大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞」など、作品とともに数々の遺産を後世に残している。

そして今もフィクションとノンフィクションの境界は揺らいでいるという。取材者の想像が入り込むとノンフィクションではありえないのか。外国語でのやり取りをあたかも対話が目の前で繰り広げられたような文章でシーンが書かれた海外取材ものはどうか―。ひとつ言えるのは「ノンフィクションの成立とはジャーナリズムが単独で成立するひとつの作品としての骨格を備えたこと」だと。その源流をさかのぼり、現代にいたるまでの他にない日本ノンフィクション通史に仕上げた。


日本ノンフィクション史 - ルポルタージュからアカデミック・ジャーナリズムまで (中公新書)

日本ノンフィクション史 - ルポルタージュからアカデミック・ジャーナリズムまで (中公新書)

  • 作者: 武田 徹
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/03/21
  • メディア: 新書



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