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一読、十笑、百吸、千字、万歩 ―医者の流儀 石川恭三 [新書]

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キャリアコンサルタントをしている知人から聞いた話だ。「二つの10万時間」という考え方がある。ひとつは大学を卒業して社会人として60歳の定年まで40年間働く時間。もうひとつは、定年退職して80歳まで生きたとして、睡眠時間を差し引いた自由な時間。いずれもおよそ10万時間となるそうだ。現役時代の労働時間に匹敵する時間が、定年後に残っている。これを「余生」と呼ぶかどうか。そう考えると、もっと元気に活用したいという気になってくる。

本書のタイトルとなっている「一読、十笑、百吸、千字、万歩」を病院に置かれたパンフレットなどで見たことがある人は多いだろう。医師で杏林大学医学部名誉教授の著者が提唱した中高年向けの健康維持と認知症予防の心得だ。これを解説するのが、もっとも参考になるだろう。

【一読】1日1回はまとまった文章を読むこと。新聞でも本でも雑誌でも。

【十笑】1日に10回は笑おう。笑う頻度が少ない人は認知機能が低下するリスクがある。

【百吸】1日に100回くらい深呼吸しよう。肺の機能が高まり、自律神経が安定する。

【千字】1日に1000字くらいは文字を書こう。認知機能を高めることができる。

【万歩】1日に10000歩を目指して歩こう。記憶力を高め、認知症の予防に効果的だ。

老いはゆっくりと進んでいるが、生を楽しむ時間はまだたっぷりあると著者は指摘する。誰しも老いを止めることはできない。しかし、そのスピードを緩やかにすることはできるのだ。


一読、十笑、百吸、千字、万歩: 医者の流儀

一読、十笑、百吸、千字、万歩: 医者の流儀

  • 作者: 石川 恭三
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2016/02/15
  • メディア: 新書



あなたの人生の物語 テッド・チャン [文学]

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評判の高かった映画「メッセージ」が先月公開され、原作の本書を手に取った。主人公の女性言語学者、ルイーズ・バンクス博士は人類とのファーストコンタクトとなったエイリアンとのコミュニケーションを取るために軍から協力を求められる。ヘプタポッド(7本脚)と呼ばれるエイリアンは、二つの言語を持っていた。発話言語と書き言葉(表義文字)だ。

小説や映画の中で重要な役割を持つ概念が「サピア=ウォーフの仮説」である。言語によって話者の思考方法や世界観が決まっていくというもの。バンクス博士は彼らの表義文字を学ぶことにより、時間認識の方法に大きな影響を与えられる。博士は将来、妊娠して娘を授かることが明らかになる。そして娘の人生のすべてを知る。物語はヘプタポッドとの対話という過去形のパートと、娘と過ごすことになる未来形のパートが交互に記述され、現在形で終わる。そのユニークな構成は映画にしても小説にしても一度では理解が難しいかもしれないが、実に味わい深い。

われわれ人類には自由意思があるから、未来は変えられると思っている。だが、因果律を超えたかれらには過去も未来も同列に見える。「あなたのおとうさんがわたしにある質問をしようとしている。これは、わたしたちの人生におけるもっとも大事なひとときであり、わたしは注意をはらって、あらゆる詳細を心に刻もうとしている」。小説の書き出しに出てくる「あなた」とはバンクス博士の娘のことなのだ。

ヘプタポッドはある日突然、人類の目の前から消えてしまう。任務を終えた博士は、仕事のパートナーだった物理学者と結婚し、娘を身ごもる決意をする。その先の人生が必ずしも明るいものではないことを博士は既に知っている。だが、博士は決意する。未来が変えられないものであっても、「あなた」を産み、育てることを。問題は結論ではない。それにたどり着くまでの愛おしい時間を持つかどうかだ。

中国系二世の米国人テッド・チャンは寡作な作家で実質、表題作を含むこの短編集以外に作品はないそうだ。8編の収録作品はいずれもさまざまな賞を受けた佳作ぞろいである。


あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: テッド・チャン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2003/09/30
  • メディア: 文庫



君の膵臓をたべたい 住野よる [文学]

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村上春樹のエッセイ集に「ランゲルハンス島の午後」という本がある。地中海あたりに浮かんでいそうな島名だが、もちろん膵臓の中でインスリンなどを分泌する重要な役割を担った細胞塊のことだ。これなしには人は生きていけない。発見者であるドイツ医師パウル・ランゲルハンスが命名した。そうではあるが、そこは村上ワールド。表題の作品ではファンタジーな空想上の島の名前として使われている。「僕はそっと手をのばして、あの神秘的なランゲルハンス島の岸辺にふれた」と。

ベストセラーとなった本書は逆に、そのタイトルのドギツさからしばらく手に取るのを躊躇していた。出版社の営業的には、このタイトルを付けたのは成功だったのだろう。

主人公の男子高校生が病院で偶然拾った「共病文庫」。それはクラスメイトの少女がつづった秘密の日記帳だった。彼女の余命が膵臓の病気により、もう長くはないことが記されていた。彼は身内以外で唯一少女の病気を知る人物となる。秘密を共有した二人は、しだいに心を通わせていく。

根暗で他人とかかわりを避けてきた主人公は、正反対の明るいヒロインに心動かされる。若さゆえに実感できない身近な人の死。それにどう向き合えばいいか苦悩する心の内を描き出していく。主人公の名前を【秘密を知ってるクラスメイト】くん、【地味なクラスメイトくん】などとカッコ書きにしているのが面白い。彼の本名はクライマックスを過ぎて出てくる。それは彼女と付き合うことで成長した主人公が、本来の自分を知ったことの象徴のように思える。

2010年代版の「世界の中心で、愛をさけぶ」といったところだろうか。薄幸の少女と少年の物語はいつの時代にも繰り返されるが、実はこの作品には終盤に大どんでん返しが待っている。その筋書き通りに話を進めるのか分からないが、7月には本書原作の映画が封切られる。「君スイブーム」はしばらく続きそうだ。

村上のエッセイが出版された時は、「ランゲルハンス島に行ってみたい」という読者の投稿がネットに散見された。それは世界中探してもない。自分の体の中にあるのだから。他者を思いやる気持ち、厳しい現実を乗り越えて生きる力―。答えはいつも自分の中にあるのだ。


君の膵臓をたべたい (双葉文庫)

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)

  • 作者: 住野 よる
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2017/04/27
  • メディア: 文庫



人民元の興亡 吉岡桂子 [ノンフィクション]

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中国が主導する現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」をテーマにした国際会議が先月、北京で開かれた。習近平国家主席が推進に強い意欲を示したのは記憶に新しい。日本は習氏の覇権戦略を警戒してきたが、このほど安倍首相が条件が合えば協力する意向を打ち出した。GDPで追い抜かれ、世界第2位の経済大国の座も譲った日本。アジアの政治経済のかじ取りが中国の手に渡るのが悔しい―。それが大方の国民感情だろう。

だが、戦前戦後の中国経済を俯瞰すると、いかに日本が「上から目線」で中国を見ていたかが、本書で分かる。中国では一時、通貨の種類が千を超えたとも言われる。欧米列強や日本からも外貨が押し寄せ、国家金融が成り立たない状態が長く続いた。先進国から蹂躙され続けた中国通貨。その統一は、中国共産党の最優先課題の一つでもあった。1948年に初めて発行されてから、中国の通貨・人民元の紙幣はすべて、肖像に毛沢東が使われている。国家統合の象徴なのだから。

本書は、中国経済力の源泉ともいえる人民元を軸に、国内外の権力のかかわりに迫った中国の150年史である。毛沢東のもとで生まれた人民元は、改革開放を進めた鄧小平が育み、習近平の覇権戦略を力強く支える。銃と銃を交えて戦ったのは前世紀の話。だが、実は今も昔も通貨こそが最も破壊力のある銃弾なのだ。

ますます強くなる人民元は、米ドルを上回る基軸通貨になるのだろうか。全国紙の記者として、中国の歴史を振り返りながら取材を進めてきた筆者は「それはありえないのではないか」と推察するに至る。一党独裁で仕切る中国の政治体制が続く限りは、国際を軽々と超えて流通する通貨をコントロールしきれないだろう。

習氏は、一帯一路構想を支える「シルクロード基金」への増資や政府系銀行を通じた融資などで総額7800億元(約12兆8千億円)を拠出する方針を表明している。金にモノを言わせて世界に進出する新興国家―。あらら、いつかのどこかの国ではないか。


人民元の興亡 毛沢東・鄧小平・習近平が見た夢

人民元の興亡 毛沢東・鄧小平・習近平が見た夢

  • 作者: 吉岡 桂子
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2017/05/24
  • メディア: 単行本



まぬけなこよみ 津村記久子 [エッセイ]

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歳時記や七十二候など季節を題材にした本が、書店で目につく。それだけ日本から季節感が薄らいできたのだろうか。秋のイメージがあった運動会は、学校行事の都合でもっぱら5月に日程が映ったし、暖冬で都市部の紅葉も12月にずれ込む。

本書は七十二候を正月から順番につづった脱力系歳時記エッセイ。「ウェブ平凡」で連載したものに加筆修正された。骨正月、バレンタイン、猫の恋、衣替え、蚯蚓(みみず)鳴く‥。季節の言葉をひとつずつ掲げて、自らの思い出や体験を披露する。新聞コラムに出てくるような社会性のある事情はほとんど取り上げない。もっぱら登場するのは、本人の少女時代からのできごとだ。

進学先が決まらないのに学校を追い出され、やけくそになってドッジボールをした卒業式、ロッカーの鍵をプールの底に落として右往左往した夏‥。子供のころから現在に至るまで、屈託のないエピソードばかりだ。折々の風物詩が過去の出来事を引き連れてくるようだ。当時は取るに足らない出来事でも、歳を重ねるごとに筆者の中の情景が豊かに膨らんでくるのだろう。

いつの間にか、七夕にときめかなくなった自分がいる。急に百均に行って折り紙を買い、七夕飾りを作る。そんな季節の移り変わりを楽しむ筆者に思わず共感する。それは四季の豊かな日本に住む読者に等しく伝わるメッセージなのだろう。


まぬけなこよみ

まぬけなこよみ

  • 作者: 津村 記久子
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2017/04/21
  • メディア: 単行本



バーナード嬢曰く。 施川ユウキ [漫画]

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なぜ人は書評を書くのか。日曜日の新聞中面に寄稿する作家・学者先生だけでなく、ネット上にも読書ブログが氾濫している。そういう当ブログも例外ではない。読了後に内容を忘れないよう整理するためか。感銘を受けた1冊を他人に紹介したいからか。それとも、「私ってこんなに読書家」とアピールしたいからか―。読書をテーマにした異色の漫画である本書に目を通していると、そんなことをぼんやりと考えた。

主人公は「読書家に憧れるけれど本を読まない」女子高生の町田さわ子。通称「バーナード嬢」。アイルランドの文学者・バーナード・ショーが由来だ。彼女の周りには、SFマニアで解説役の黒髪少女・神林さん、旬を過ぎたヒット作を愛するつっこみ役のイケメン遠藤君、シャーロキアン女子の長谷川さん。放課後の図書館で繰り広げられる本談義のやり取りが何とも面白い。

秀逸なのは、本への愛があふれすぎてマシンガントークが止まらない神林さんの長セリフだ。本の内容だけでなく、SF小説の邦題が改訂に合わせて変わることがあること、ハヤカワの文庫本が他社のものより一回り大きいので書店のブックカバーに入らないことなど、うんちくが次々と披露される。

一方、理由をつけては名作の読破を避けようとする町田さん。村上春樹さえ一冊も呼んでいない。そこで村上の翻訳本をちょっと読みして「あくまで文体が好きなんだよね的ポジション」で「現代アメリカ文学のこともわかった気になれそう」という「村上春樹との距離感」を提案する。毎回、手の抜き方が全然省力化になっていないのが笑いを誘う。

そんな対照的な2人が最初は喧嘩を繰り返すのだが、本を通じて心を通わせていく。本以外に人とつながることが不得手な神林さんが、余計なことを言って反省したり、町田さんから尊敬されて照れたりするしぐさが何ともかわいい。

著者もかなりの読書通なのだろう。SFだけでなく、「銃・病原菌・鉄」「船を編む」「フェルマーの最終定理」などと、古今東西の名著が登場する。登場した本の一覧や書きおろしのコラムも充実。読書ガイドとしても置いておきたい作品だ。


バーナード嬢曰く。 (REXコミックス)

バーナード嬢曰く。 (REXコミックス)

  • 作者: 施川 ユウキ
  • 出版社/メーカー: 一迅社
  • 発売日: 2013/04/19
  • メディア: コミック



バーナード嬢曰く。 2 (IDコミックス REXコミックス)

バーナード嬢曰く。 2 (IDコミックス REXコミックス)

  • 作者: 施川ユウキ
  • 出版社/メーカー: 一迅社
  • 発売日: 2015/07/27
  • メディア: コミック



バーナード嬢曰く。 3 (IDコミックス REXコミックス)

バーナード嬢曰く。 3 (IDコミックス REXコミックス)

  • 作者: 施川ユウキ
  • 出版社/メーカー: 一迅社
  • 発売日: 2016/10/27
  • メディア: コミック



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