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楽園の泉 アーサー・C・クラーク [文学]

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ロケットを使わずに宇宙へ向かう「宇宙エレベーター」を建造する話だ。高度3万6千キロの静止軌道上からケーブルを繰り出し、人や物資を輸送する。「どんなロケットより百倍も効率がよくなるでしょう」。主人公の技術者がそう力説する。

「2001年宇宙の旅」で知られるSF界の巨匠が1979年に発表したのが本作。物語の重要な役割を果たす宇宙エレベーターは奇想天外な構想ではない。60年代から次々と各国で発表された軌道式エレベーターの科学的知見に基づいて緻密に描かれている。

そんなロマンあふれる構想が現実味を帯びてきた。大手ゼネコンの大林組が2012年、宇宙エレベーター建設という壮大な構想を発表した。総工費約10兆円。完成時期の目標は2050年。計画の命運を握るケーブルの素材として、耐久性の強いカーボンナノチューブが開発されたことで構想は大いに前進。実用化すれば、膨大な燃料を消費する従来のロケットに比べ格安のコストで人工衛星を宇宙に届けられ、宇宙観光も可能になる

来月(2017年4月)には基礎技術となるケーブルの延伸実験が宇宙空間で行われる。静岡大学が開発して昨年打ち上げた超小型衛星を利用し、2基に分かれた衛星間でケーブルがうまく伸びるか調査する予定だ。青い地球を見下ろせる宇宙旅行が実現する「2050年宇宙の旅」が訪れるのはそんな遠い話ではなさそうだ。


楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)

楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: アーサー・C. クラーク
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2006/01
  • メディア: 文庫



猫の古典文学誌 田中貴子 [文学]

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黒猫の子のぞろぞろと月夜かな(飯田龍太)

「猫の恋」「猫の子」は歳時記では春の季語だ。猫が恋盛んに鳴く。子も生まれる。春が猫の発情期なのは、温かい時期のほうが餌も豊富で過ごしやすく子猫の生存率が高いからだという。

本書によると、平安時代には多くの王朝人が猫を飼うようになった。輸入物の「唐猫」は高級品で、錦繍でできた首輪に金の鈴がつけられた。「源氏物語」では、源氏の正妻・女三宮を隠していた御簾を猫がまくり上げてしまい、かつて女三宮が思いを寄せていた柏木とが密通関係となる端緒をつくる。この時、猫は「ねうねう」と鳴く。これは猫の鳴き声の表現として初めて登場した。「(早く)寝よう寝よう」というちょっとエッチな裏の意味が隠されているという。

さて、今は空前の猫ブームといわれる。猫の写真集などのグッズの売れ行きもよく、アベノミクスをもじって「ネコノミクス」と呼ばれている。関西大の宮本勝浩名誉教授の試算によると、商品や観光などを含めた経済効果は年間約2兆を超す。家庭で飼われる猫の数も近く犬を追い抜く見通しだ。もてはやされたり、飽きられたり。猫も大変である。


猫の古典文学誌 鈴の音が聞こえる (講談社学術文庫)

猫の古典文学誌 鈴の音が聞こえる (講談社学術文庫)

  • 作者: 田中 貴子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/10/11
  • メディア: 文庫



騎士団長殺し 村上春樹 [文学]

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東日本大震災から6年がたった。1万5千人以上が亡くなり、今も12万人が自宅に戻れない。これだけの未曾有の大災害の後である。物語の中で「大きな嘘」がつけなくなった。ファンタジーの世界でいくら大活躍をし、世界を救おうとも、現実の世界はまったく救済されない。だから、われわれの日常空間の延長線上で「小さな嘘」を語ることが、近年のストーリーの主流になってきているような気がする。

日常と異空間がつながり、融合するマジックリアリズム文学の旗手である村上春樹がもてはやされるのも、こうした世相が反映しているのだろうか。4年ぶりの書下ろし長編となる本作も、その手法がいかんなく使われている。

妻に離婚を言い渡された肖像画家の主人公が、友人の父が建てた小田原市郊外の家に落ち着く。そこで謎めいた体験をすることになる。その正体は「騎士団長殺し」のタイトルが付いた絵と、近隣の雑木林に掘られた穴だ。絵の中の登場人物が主人公のもとを訪れたり、主人公が穴を通してあちらとこちらの世界を往来したりする。

村上作品には異界との通路が用意されている。「海辺のカフカ」の森、「ねじまき鳥クロニクル」の井戸などだ。今回は夜中に鈴の音が聞こえる「穴」である。いずれの作品においても主人公は、その通路を通る試練を与えられ、それを達成することで成長し、再生を果たす。100パーセントリアルで描かれた「ノルウェイの森」にも通路が用意されていれば、主人公の再生は早まったのではないだろうか。

第1部、第2部の2部構成で、物語も一応の決着を見たが、冒頭の顔のない男が出したリクエストは果たしていない。「1Q84」や「ねじまき鳥クロニクル」のように、将来3巻が出てきそうな予感がなくはない。


騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/02/24
  • メディア: 単行本




騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/02/24
  • メディア: 単行本



60分で名著快読 徒然草 [文学]

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文部科学省が先日公表した次期学習指導要領改定案で、聖徳太子は「厩戸王(うまやどのおう)」の表現になるそうだ。歴史学的に一般的になってきた呼称にそろえるという。近年の学術研究を踏まえて、社会の授業や教科書で取り上げていた歴史用語が変わることはままある。

「徒然草」の作者・兼好法師もそうだろう。かつては「吉田兼好」と呼ばれていた。今の教科書では「兼好法師」または「兼好」となっている。歴史研究者によると、兼好は吉田姓を名乗ったことはなく、江戸期になって勝手に「ご先祖様」に仕立てた吉田姓の神官の影響だったということが分かっている。

名前はともあれ、「徒然草」の評価は今の世になっても下がることはない。それは、どんな時代にも通用する処世訓がちりばめられているだけでなく、人生のちょっとした喜怒哀楽が短い話の中に簡潔に凝縮されているからだろう。特に閉塞感が漂う現代では、どこかに息苦しさを感じている。そんな私たちへの人生の処方箋として存在感を増している。本書は、そんな徒然草のエッセンスを分かりやすく解説してくれる。

げにげにしくところどころうちおぼめしき、よく知らぬよしして、さりながら、つまづまあはせて語る虚言は、恐ろしきなり(いかにも本当らしく、ところどころはぼかして、よく知らない風をして、そのくせ要所要所の話のつじつまを合わせて語る嘘は、罪深く恐ろしい)

SNSが拡散する現代の偽ニュース。兼好さん、800年後にも通じる指摘、さすがである。

60分で名著快読 徒然草 (日経ビジネス人文庫)

60分で名著快読 徒然草 (日経ビジネス人文庫)

  • 作者: 山田 喜美子
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2016/10/04
  • メディア: 文庫



現代うた景色 河野裕子の短歌案内 河野裕子 [文学]

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歌人の河野裕子さんが、有名歌人から投稿のものまでお気に入りの短歌を選び、折々の季節や世相といった現代の風景に重ね合わせて解説するアンソロジー(選集)である。女性の筆者らしく、失恋、家族、老いなど、女の生き方に触れるテーマが目立つ。

たとへば君 ガサッと落ち葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか 河野裕子

若き日の選者自身の歌は、命令形でストレートに思いを伝える恋の歌だ。臆病でナイーブな現代の若者の恋とは対照的な力強さを感じる。

フェミニズムの正しさゆえの空しさが手を汚さないやつにわかるか 久々湊盈子

女性に降りかかってくる親の介護をずばりと本音で切る歌。「過酷なくらいに現実を写している」と評する。

ページをめくっていくうち、こんな歌を見つけた。亡くなった子を想う歌だ。

汝(なれ)というわが子は一人撫でやりし手が覚えいる頭の形 小石薫

「逆縁」ということばを河野さんは紹介する。親より先に子供が死んだ場合に使われるそうだ。「残された親にとっては、自分が生きている限り、死んだ子供の時間は生き続ける」と語る。

先月、島根県益田市の国道で起きた事故が新聞に載っていたのを思い出した。ボランティアで児童の通学を見守っていた男性が、突っ込んできた軽トラックにひかれ死亡した。男性は33年前、小学2年生だった次女を交通事故でなくし、それを機に子どもたちの見守り活動を続けていたという。ずっと愛娘の「撫でやりし」頭の感触が自分の命が絶える日まで残っていただろう。

本を通じて訴えてくるのは、生きる喜びやつらさ、身近な人の愛。何気なく存在する日常が、河野さんが選び出した短歌を通して見ると、愛おしく思える。

河野さんは終戦直後の1946年生まれ。生の実感を表現する作風で、戦後の女性短歌界をけん引してきた。夫も歌人の永田和宏さん。晩年は乳がんと闘病し、その境遇を多く歌に詠んだ。2010年に死去。

河野さん自身の最後の歌が巻末の解説に載っていた。

手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が 河野裕子

歌がどれだけ世界を豊かにするか、身にしみてくる。

現代うた景色-河野裕子の短歌案内 (中公文庫)

現代うた景色-河野裕子の短歌案内 (中公文庫)

  • 作者: 河野 裕子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/07/23
  • メディア: 文庫



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