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バーナード嬢曰く。 施川ユウキ [漫画]

なぜ人は書評を書くのか。日曜日の新聞中面に寄稿する作家・学者先生だけでなく、ネット上にも読書ブログが氾濫している。そういう当ブログも例外ではない。読了後に内容を忘れないよう整理するためか。感銘を受けた1冊を他人に紹介したいからか。それとも、「私ってこんなに読書家」とアピールしたいからか―。読書をテーマにした異色の漫画である本書に目を通していると、そんなことをぼんやりと考えた。

主人公は「読書家に憧れるけれど本を読まない」女子高生の町田さわ子。通称「バーナード嬢」。アイルランドの文学者・バーナード・ショーが由来だ。彼女の周りには、SFマニアで解説役の黒髪少女・神林さん、旬を過ぎたヒット作を愛するつっこみ役のイケメン遠藤君、シャーロキアン女子の長谷川さん。放課後の図書館で繰り広げられる本談義のやり取りが何とも面白い。

秀逸なのは、本への愛があふれすぎてマシンガントークが止まらない神林さんの長セリフだ。本の内容だけでなく、SF小説の邦題が改訂に合わせて変わることがあること、ハヤカワの文庫本が他社のものより一回り大きいので書店のブックカバーに入らないことなど、うんちくが次々と披露される。

一方、理由をつけては名作の読破を避けようとする町田さん。村上春樹さえ一冊も呼んでいない。そこで村上の翻訳本をちょっと読みして「あくまで文体が好きなんだよね的ポジション」で「現代アメリカ文学のこともわかった気になれそう」という「村上春樹との距離感」を提案する。毎回、手の抜き方が全然省力化になっていないのが笑いを誘う。

そんな対照的な2人が最初は喧嘩を繰り返すのだが、本を通じて心を通わせていく。本以外に人とつながることが不得手な神林さんが、余計なことを言って反省したり、町田さんから尊敬されて照れたりするしぐさが何ともかわいい。

著者もかなりの読書通なのだろう。SFだけでなく、「銃・病原菌・鉄」「船を編む」「フェルマーの最終定理」などと、古今東西の名著が登場する。登場した本の一覧や書きおろしのコラムも充実。読書ガイドとしても置いておきたい作品だ。


バーナード嬢曰く。 (REXコミックス)

バーナード嬢曰く。 (REXコミックス)

  • 作者: 施川 ユウキ
  • 出版社/メーカー: 一迅社
  • 発売日: 2013/04/19
  • メディア: コミック



バーナード嬢曰く。 2 (IDコミックス REXコミックス)

バーナード嬢曰く。 2 (IDコミックス REXコミックス)

  • 作者: 施川ユウキ
  • 出版社/メーカー: 一迅社
  • 発売日: 2015/07/27
  • メディア: コミック



バーナード嬢曰く。 3 (IDコミックス REXコミックス)

バーナード嬢曰く。 3 (IDコミックス REXコミックス)

  • 作者: 施川ユウキ
  • 出版社/メーカー: 一迅社
  • 発売日: 2016/10/27
  • メディア: コミック



傘寿まり子 おざわゆき [漫画]

「高齢者」とは何か。その定義を従来の65歳以上から10歳引き上げて75歳以上に見直すよう日本老年学会などが提言している。根拠に挙げられたのが、この世代の若返りだ。65~74歳の高齢者はかつてに比べ、身体の働きや知的能力が5~10歳ほど若いという。まだまだ社会の支え手でいられる年代というわけだ。

だが傘寿(80歳)になるとどうか。本作は、80歳のベテラン作家・幸田まり子がヒロインである。亡き夫と建てた家に、息子夫婦、孫夫婦と同居するが、狭すぎていさかいが絶えない。とうとうまり子はリュック一つで家出する。

家出のきっかけになったのが、同世代の知り合いの葬儀だ。まり子と同じ4世代での同居家族がいながらも、倒れてから3日もたって発見された。邪見に扱われた知人の死をまじかにして、まり子はつぶやく。「私たち、早く死ねばよかったの?」と。

家出後は、名のある作家とはいえ、独り身の高齢者だとアパートも貸してもらえない。だれもが好き好んで歳を取ったわけでもないのに、厳しい世間の仕打ちが待ち受ける。わが身もこうなるのだろうかと思うと、切ない気持ちになる漫画である。

負けん気が強いまり子は、さまざまな障害を乗り越えようとする。物語は希望を生むのか、それとも絶望につながるのか。2巻を読み終えたこの先が気になるところだ。


傘寿まり子(1) (KCデラックス BE LOVE)

傘寿まり子(1) (KCデラックス BE LOVE)

  • 作者: おざわ ゆき
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/11/11
  • メディア: コミック



この世界の片隅に こうの史代 [漫画]

現在公開中の同名のアニメーション映画の原作漫画である。映画の方は昨年(2016年)11月にわずか63館でスタートしたが、SNSで評判が広がり、累計上映館は300館、興行収入も20億円を突破した。小規模上映映画としては異例のヒットである。このままいけば、広島原爆の日や終戦記念日のある今年8月まで公開が続くかもしれない。

太平洋戦争末期の広島・呉を舞台に、悲惨な時代をほがらかに生きる女性、すずの物語だ。18歳で見ず知らずの海軍文官の妻になり、節約の料理法や苦手な裁縫に挑戦する。食糧難に悩まされながらも、道端で摘んだ野草でご飯をつくるすずは楽しげでもある。だが、そんな生活も空襲や原爆に奪われる。

そんな「戦争作品」がなぜここまで受け入れられたのだろうか。作品の中に出てくるのは、すずとその家族の日常を丹念に描いた世界だ。声高に反戦を掲げることなく、ありのままのエピソードを丁寧に表現し続けることで、戦争の持つ暴力性を浮かび上がらせる。それは不意に起きた大災害に置き換えることもできるし、われわれが現実で体験しているさまざまな不条理ととらえることもできる。それぞれの読者や観客が普遍的なテーマとして読み取ったのではないか。

とはいえ、原作者のこうのさんは、呉に住み戦火を生き抜いた亡き祖母の体験を残したいという思いがあったという。国会図書館や郷土資料館で当時の雑誌や新聞を集め、家具や服装などを細かく調べた。

映画が始まった折、ネットにユーザーが描いたイラストがアップされた。すずは戦後をたくましく生き、現在は90歳超。最年長のカープ女子として日本シリーズを応援する。主人公を身近に触れさせるこの作品は、戦争を遠い歴史の一幕とせず、今生きているわれわれとつながっていることを実感させる。戦争を単なる悲惨な時代と目を背けることなく、記憶を後世につないでいくことができるなら、その意味は大きい。

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

  • 作者: こうの 史代
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2008/01/12
  • メディア: コミック



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