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文明の衝突 サミュエル・ハンチントン [ノンフィクション]

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最近、また本屋で平積みになっているのを見かけた。欧州を中心に世界各国で頻発するテロが続く。特にイスラム主義者と西欧諸国の死闘は出口のないトンネルの中を走っている。そこで再び脚光を浴びているのが、1990年代に米政治学者(故人)が出版した本書というわけだ。

ファシズムや共産主義による世界的な抗争が終わりを告げ、米ソ冷戦も終焉した後の世界政治を突き動かす力学は何か。著者は「文明の衝突」が最も目立つようになるだろうと予言した。世界は八つの文明に分けることができるという。すなわち、西欧・中国・日本・イスラム・ヒンドゥー・スラブ・ラテンアメリカ・アフリカである。日本はこれまで西欧にも中華圏にも染まらず、独自の経済や文化を築いたことから、1カ国で単独の文明を持っている。そして、世界各地で頻発する紛争の原因は「文明の断層線(フォルト・ライン)に沿って起こる」と論じた。

これは同じく米政治家のフランシス・フクヤマの論調と対照的だ。国際社会において西欧型の民主主義と自由経済が最終的に勝利し、安定した政治体制が構築されるため、戦争やクーデターのような歴史的大事件はもはや生じなくなると「歴史の終わり」に書いているからだ。ところが、欧米は自らの普遍的な文化を広めようとしたものの、国力の相対的な低下により、その能力に乏しい。一方で、非西欧型の中国などアジア地域の国々は西欧化するどころかむしろ、急速な経済成長をバックに自分たちの固有の文化に自信を強めている。

特に近年頻発する西欧とイスラム教との衝突は、暴力的な一部過激派に問題があるという見方を著者は否定する。それは「われわれはだれなのか」というアイデンティティーをベースにした闘いだからである。90年代のユーゴスラビアの解体はまさに、分裂した国を挙げての宗教・文化戦争だった。イスラムの国々は敵対しながらも、時には共通の敵である西欧文明に対し、支援を施したり同調する。

それでは日本はどうか。中国の台頭と米国の衰退の中で、中国への同調を強めるのではないかと推察している。日本という国は歴史的に見て不可抗力を受け入れ、最強国との連携を取り持つことを是としている。さらに東アジア圏で米国の影響力が消え、中国が完全な主導権を握れば、むしろ不安定な状況や紛争は減るとしている。そのころには、日本は米国より中国側についているだろうというのだが、それはどうだろうか。著者の言い分はいささか過激に思えるが、いずれにせよ、東アジアのパワーバランスが変動する中で、日本が抜本的な戦略見直しをしないといけないことは理解できる。

ハンチントンの主張は当時、大きな論議を呼び起こしたが、広く社会に受け入れられたわけではない。欧米以外の記述に誤解や曲解が多いからだといわれているが、そもそも西欧文明の普遍性を否定するものだからであろう。異なる宗教と文化を持つ民族は共存も協力もできないという結論を受け入れたくない人も多いはずだ。人間とは異なる文明に不寛容な存在だとしても。



文明の衝突 上 (集英社文庫)

文明の衝突 上 (集英社文庫)

  • 作者: サミュエル ハンチントン
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2017/08/22
  • メディア: 文庫



文明の衝突 下 (集英社文庫)

文明の衝突 下 (集英社文庫)

  • 作者: サミュエル ハンチントン
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2017/08/22
  • メディア: 文庫



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隣国への足跡 黒田勝弘 [ノンフィクション]

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今夏公表された日韓共同世論調査の結果を見ると、ざっくり言って両国とも相手国に対して悪い印象を持っていると答えた人は半数。良いは4分の1にとどまっている。韓国は教育を含め、社会的に反日の空気があり、そんな空気を読み取った日本人の「嫌韓」意識も根強い。そのムードも近年は訪日韓国人観光客の増加で少しは和らいでいると聞くが、根本的に両国が急速に良好な関係になる材料は今のところ見当たらない。

著者は産経新聞ソウル駐在客員論説委員で、ソウル在住35年の新聞記者だ。1941年生まれだから、人生の半分近くを韓国で過ごしていることになる。そんな著者が主に取材の実体験をもとに日韓の近現代史をひもといてみせる。日韓併合前の閔妃暗殺事件、戦後日本で起こった金嬉老事件、金賢姫による大韓航空機爆破事件など、日本人の耳目を集めたエピソードの持つ意味を解説してくれる。

韓国の徹底的な反日教育の背景には、35年続いた日本の韓国併合があると著者は指摘する。戦時中の京城(現ソウル)の映画館では、日本軍の戦勝場面を伝えるニュース映画に観客が熱狂した。日本人と同化してしまったのだ。日本人になりつつあった韓国人のアイデンティティーを取り戻し、元の韓国人にするためには日本を全否定する反日教育が必要だったという。

そもそも地政学的に日本は韓国と無縁ではいられない。前世紀から振り返っても、朝鮮半島の利権を奪い合った日露戦争と第2次世界大戦、そして米ソ覇権をかけた朝鮮戦争と、それぞれに日本は深くかかわらざるを得なかった。それの状況は今後も変わらないだろう。

そんな韓国に住む日本人の居心地の悪さも著者は正直に語る。日韓関係を語る時、双方の視点とその先に見える風景は異なって当然だ。その風景が近くなることはあっても同じになることは今後もありえないだろう。「しかし、お互い隣に存在するという地理的環境だけは不変なのだ。だから逃げ出すわけにはいかない」と著者は言う。そして隣国との付き合いに悩まされ続けるのである。


隣国への足跡 ソウル在住35年 日本人記者が追った日韓歴史事件簿

隣国への足跡 ソウル在住35年 日本人記者が追った日韓歴史事件簿

  • 作者: 黒田 勝弘
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/06/23
  • メディア: 単行本



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ソ連が満洲に侵攻した夏 半藤一利 [ノンフィクション]

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8月15日、終戦記念日である。72年前の夏、日本本土が敗戦の落胆と戦争終結の安堵に包まれていたころ、そこから戦争の悲劇が始まった場所がある。中国東北部の「満洲」と呼ばれた地域だ。1945年8月9日、ソ連は中立条約を破棄して満洲に侵攻、関東軍総司令部はいち早く退却し、満蒙開拓団などで入植していた大勢の民間人が殺戮と暴行と略奪の嵐に巻き込まれ、見殺しにされた。現地に駐在していた日本軍兵士や根こそぎ動員された男性民間人は、シベリア抑留の犠牲者となる。

本書はソ連の指導者スターリンが対日参戦を指示し、戦争が終結するまでを膨大な資料を駆使して再現している。著者はソ連の参戦を加速させたのが米国の原爆実験成功だったと指摘する。当時、対独戦争で疲弊した国民を鼓舞してまでも日本に戦争を仕掛けたかったのは、アジアの利権を米国に独占させることを見過ごせなかったからだ。1945年2月のヤルタ会談では、南樺太や千島列島の引き渡し承認の密約を米英に要求する。戦争終結を早めたかった当事者たちはソ連の欲深い主張を飲まざるをえなかった。

ソ連の侵攻を招いた背景には、日本の指導層の無能無策、優柔不断さ、情報収集力の欠如があると著者は指摘する。「起きてほしくないことは起こらない」とする裏付けもない楽観主義は、対日参戦を決めていたソ連に終戦の仲介をすがるという絶望的な決断へと日本を導いた。その経緯を著者は怒りを抑えた筆致で書き進める。どころどころその怒りは抑えきれずに行間ににじみ出す。それほど、満洲に置き去りにされた居留民の体験はむごたらしいものだった。

先月、旧満洲地域を旅行した。ソ連と国境を接する黒竜江省の開拓団跡にも立ち寄った。地平線までトウモロコシや大豆畑が広がる緑の大地には、かつて入植していた日本人家屋はもうほとんど残っていない。中国の目覚しい経済発展で、こんな奥地にも高速道路が伸び、工業団地が広がる。あの戦争を証言する遺構は、観光名所となった建物を除けば開発の波にのみ込まれ、消えつつある。だが、この曠野で阿鼻叫喚の惨劇が繰り広げられた事実は消えることはないだろう。

満州からの引き揚げ者の犠牲者は日ソ戦での死亡者を含めて約24万5000人にのぼるという。その数は、東京大空襲や広島原爆、沖縄戦をしのぐ。


ソ連が満洲に侵攻した夏 (文春文庫)

ソ連が満洲に侵攻した夏 (文春文庫)

  • 作者: 半藤 一利
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2002/08/01
  • メディア: 文庫



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流れる星は生きている 藤原てい [ノンフィクション]

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7月になり、暑い夏がやってきた。新聞を広げると、今年も72年前の空襲や戦争体験を語り継ぐ記事が載り始めた。そんな季節にページをめくるのが本書である。戦時中、満州(中国東北部)の首都・新京(長春)にいた著者が3人の幼い子どもを連れて、朝鮮半島の38度線を越える1年がかりの逃避行の果てに帰国するまでの手記だ。

日本の敗戦が濃厚になり、ソ連が参戦した1945年8月9日。観象台(気象庁の観測施設)勤務の夫から関東軍の家族が既に移動を始めていることを知らされる。著者を含む観象台の家族ら「観象台疎開団」は汽車で満州と朝鮮の国境・鴨緑江の鉄橋を渡り、朝鮮半島の付け根の街に収容され、そこで終戦の日を迎える。後から追いかけて合流した夫の再開もつかの間、18歳から40歳の日本人男子は平壌へ送られることになり、そのままシベリア送りになる。

そこから朝鮮半島を南下する女子供らによる疎開団の旅が始まる。著者の両手には6歳の長男と3歳の次男。背中には生後1カ月の長女。飢えや襲撃から身を守りながら、赤土の泥にまみれて歩き、川の中会を徒歩で渡り、ぐずる子供たちを叱咤激励しながら米軍のいる38度線を目指す。米軍に保護された時は、みんな足の裏に石がめり込み、化膿していた。

物語の中で強調されるのが、戦争という異常事態の中に置かれた人間のエゴだ。食べ物や虎の子のお金を奪い合い、なりふり構わず、生き延びるために他人を利用する。そんな人間たちが押し込められた貨車の中の情景描写が印象的だ。

<またいつものような個人主義と、極度に人を嫌う嫌悪感とがごっちゃになって、互いに目で憎み、心で猜疑して、人間の根性の底の底までさらけ出したまま蛆虫のように蠢いていた>

それでも生きることをあきらめず、子どもたちを3人とも日本へ連れて帰った母親の強さを思い知らされる。満州引き揚げの体験記には、かなり目を通した。逃避行の途中に集団自決で自分の子どもに手をかけた、収容所で起きたら傍らで赤ちゃんが冷たくなっていた―。もっとむごい体験は枚挙にいとまがない。それでも本書が読み継がれたのは、その巧みな情景・心理描写にあるだろう。

タイトルの「流れる星は生きている」は、引き揚げの途中に出会った男性から聞いた名もなき戦士の歌だ。

<いつかあなたにまた逢える/きっとあなたにまた逢える/ご覧なさいね 今晩も/流れる星は生きている>

そんなフレーズを博多港に到着する直前に口にして思わず涙がごぼれる。郷里の諏訪に着き、両親の手に抱かれて「もう死んでもいいんだ」という心の叫びは、苦難の逃避行のつらさを表して余りある。

ちなみに、著者の夫は「八甲田山死の彷徨」などで知られる作家の新田次郎。次男は「国家の品格」などの著書もある数学者の藤原正彦だ。



流れる星は生きている (中公文庫)

流れる星は生きている (中公文庫)

  • 作者: 藤原 てい
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2002/07/25
  • メディア: 文庫



人民元の興亡 吉岡桂子 [ノンフィクション]

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中国が主導する現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」をテーマにした国際会議が先月、北京で開かれた。習近平国家主席が推進に強い意欲を示したのは記憶に新しい。日本は習氏の覇権戦略を警戒してきたが、このほど安倍首相が条件が合えば協力する意向を打ち出した。GDPで追い抜かれ、世界第2位の経済大国の座も譲った日本。アジアの政治経済のかじ取りが中国の手に渡るのが悔しい―。それが大方の国民感情だろう。

だが、戦前戦後の中国経済を俯瞰すると、いかに日本が「上から目線」で中国を見ていたかが、本書で分かる。中国では一時、通貨の種類が千を超えたとも言われる。欧米列強や日本からも外貨が押し寄せ、国家金融が成り立たない状態が長く続いた。先進国から蹂躙され続けた中国通貨。その統一は、中国共産党の最優先課題の一つでもあった。1948年に初めて発行されてから、中国の通貨・人民元の紙幣はすべて、肖像に毛沢東が使われている。国家統合の象徴なのだから。

本書は、中国経済力の源泉ともいえる人民元を軸に、国内外の権力のかかわりに迫った中国の150年史である。毛沢東のもとで生まれた人民元は、改革開放を進めた鄧小平が育み、習近平の覇権戦略を力強く支える。銃と銃を交えて戦ったのは前世紀の話。だが、実は今も昔も通貨こそが最も破壊力のある銃弾なのだ。

ますます強くなる人民元は、米ドルを上回る基軸通貨になるのだろうか。全国紙の記者として、中国の歴史を振り返りながら取材を進めてきた筆者は「それはありえないのではないか」と推察するに至る。一党独裁で仕切る中国の政治体制が続く限りは、国際を軽々と超えて流通する通貨をコントロールしきれないだろう。

習氏は、一帯一路構想を支える「シルクロード基金」への増資や政府系銀行を通じた融資などで総額7800億元(約12兆8千億円)を拠出する方針を表明している。金にモノを言わせて世界に進出する新興国家―。あらら、いつかのどこかの国ではないか。


人民元の興亡 毛沢東・鄧小平・習近平が見た夢

人民元の興亡 毛沢東・鄧小平・習近平が見た夢

  • 作者: 吉岡 桂子
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2017/05/24
  • メディア: 単行本



銃・病原菌・鉄 ジャレド・ダイアモンド [ノンフィクション]

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先のフランス大統領選で完敗はしたものの、マリーヌ・ルペン氏率いる極右政党「国民戦線」は、主流派への歩みを確実にした。移民の入国制限や安全のための取り締まり強化、そして保護主義の推進といった考えは、経済低迷を背景にすんなりと受け入れられた。いまや自国優先主義は米国のトランプ政権を挙げるでもなく、世界を席巻している。その文脈の中でたびたび表面化するのが、民族差別だ。他者を「劣等民族」として排斥するデモやネットの書き込みは、日本でも珍しくない。

では、生来劣等な民族というものが本当にあり得るのか? その素朴な質問に答えてくれたのが、本書である。著者があるニューギニア人にこう尋ねられる。「あなたがた白人は、沢山のものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私達ニューギニア人には自分のものといえるものがほとんどない。それは何故だろうか?」。持つものと持たざるもの。世界の不均衡はどこから来たのかという壮大な謎を、進化生物学、生物地理学、文化人類学、言語学など広範な最新知識を駆使して解き明かす。

著者は、白人の遺伝子が優れているからだという短絡的な回答をせず、たまたま白人の住む環境が優れていたからであると結論づける。そして白人が他世界を征服する際に、最も破壊的な影響を与えたものが、題名に出てくる銃・病原菌・鉄だと考察している。

ヨーロッパ人に恩恵を与えたユーラシア大陸は、同じような気候条件下で東西に広がっている土地だったために、家畜化した動物や農業化した植物を簡単に別の土地に広めることができた。家畜化された大型動物と穀物によって農業が発達すると、食料と富の余剰が生まれ、人口が増えて専門家の出現を可能にしたため、テクノロジーが発達した。同時に家畜から移った細菌によって免疫力がつき、新大陸征服時には銃や細菌が威力を発揮した。

そして同じような環境に恵まれていた中国が先に世界の覇権を握れなかったのかも解説する。ある時期まではヨーロッパ諸国を超える文明を開発していたのだが、自国の統一のみにエネルギーを費やし他国との交流を絶ってしまい、海外渡航も制限してしまったので他地域の制覇も行われなかったのだとしている。

さて、こうした地の利を生かして世界をずっとリードしてきた欧米を見ていると、筆者の別の著書「文明崩壊」を思い起こす。文明はわずかの決断の誤りによって、もろくも崩壊することを看破した。文明国の行方はいかに。


文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

  • 作者: ジャレド・ダイアモンド
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2012/02/02
  • メディア: 文庫



文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

  • 作者: ジャレド・ダイアモンド
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2012/02/02
  • メディア: 文庫



魂でもいいから、そばにいて 3・11後の霊体験を聞く 奥野修司 [ノンフィクション]

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怪異譚(たん)の収集で知られる柳田国男の「遠野物語」には、岩手県遠野に伝わる神々や精霊、妖怪などが登場する話が119話収められている。この中で、明治期の三陸大津波で妻を失った福二という男が、津波で亡くなったはずの妻と出会う話がある。しかも、結婚する前に交際していた元彼と連れ立って。妻は「今はこの人と夫婦になっている」と言い、立ち去っていく。福二は妻が別れた男にまだ思いを寄せているのではないかと悩み続けていて、そんな幻想を見たのだろうか。

迷信やフォークロアが似合う東北にはこうした怪異譚が多い。「津波に流されたはずの祖母が縁側に座っていた」「枕元に亡夫が立っていた」-。こんな話が、東日本大震災後の東北のあちこちで聞かれるようになった。そんな不思議な体験をした人々を探し出し、インタビューした記録が本書である。

霊的体験で最も多いのが、亡くなった家族や恋人が夢に現れるという現象だ。リアルでカラーの夢で、何らかのメッセージを受け取る人も少なくない。その次に多いのは「お知らせ」といわれる現象。死の直前にお別れのあいさつに来たといったものだ。また、使えなくなった携帯電話から「ありがとう」のメールが届いたりするのは、現代ならではの怪異譚である。

彼らはこうした体験を怖いとは思わない。むしろ、「霊になっても抱いてほしかった」と再会を心待ちにしている。震災で突然失った人との物語をどうにかして紡ぎ直そうとする体験者たちの真摯な姿がそこにある。その苦境を乗り越えるための足場でもあるのだろう。

もちろん、こうした体験談が科学的だとは筆者も思っていない。科学では再現性のない自然現象は対象にならないからだ。だが、それは重要なことではないという。亡くなった人に会った、声を聞いたという霊的体験が「事実」なら、その体験を素直に受け止めることからスタートすべきだと。被災者への優しいまなざしがそこにはある。


魂でもいいから、そばにいて ─3・11後の霊体験を聞く─

魂でもいいから、そばにいて ─3・11後の霊体験を聞く─

  • 作者: 奥野 修司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/02/28
  • メディア: 単行本



本当の夜をさがして ポール・ボガード [ノンフィクション]

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世界の3人に1人が夜空に広がる天の川を見ることができない。夜間照明など人工の光が過剰にあふれる「光害」の影響だ。そんな調査結果をイタリアや米国のチームが昨年、米科学誌に発表した。都市化が進んだ日本では人口の7割が天の川が見えない場所に住んでいるという。

本書によると、「僕たちの暮らす大陸はさながら火事のように燃えている」のだと。夜も人工の光に包まれる欧米は「もはや本当の夜-つまり本当の暗闇-を経験したことがない」と断ずる。

人工照明への依存は、星が見えなくなるだけではなく、不眠症などの疾病を人類にもたらし、星明かりを頼りに飛行する渡り鳥の習性を狂わす。地球の生態系を徐々に蝕んでいると指摘する。

これまで「光は善、闇は悪」と語られることが多かったが、本書では世界の豊かさを象徴するものとして語られる。「夜の音、夜の匂い」の項では、「暗い方がよく聞こえるんだ」という米国先住民の教育者の言葉を引用したり、「夜の香りは豊かで芳醇だ」と賞賛したりする。その闇の文化は日本の谷崎潤一郎の随筆「陰翳礼讃」にまで及ぶ。

闇の世界の豊かさを取り戻すため、夜空が美しい地域を「星空保護区」に認定している国際ダークスカイ協会の活動なども紹介している。空を観賞して思索する機会が奪われたわれわれに課せられた課題は多い。夏の銀河を仰いだ先人たちと現代を生きるわれわれとどちらが豊かだったのか、考えさせられる。


本当の夜をさがして―都市の明かりは私たちから何を奪ったのか

本当の夜をさがして―都市の明かりは私たちから何を奪ったのか

  • 作者: ポール ボガード
  • 出版社/メーカー: 白揚社
  • 発売日: 2016/04/19
  • メディア: 単行本



日本国憲法をつくった男 宰相幣原喜重郎 塩田潮 [ノンフィクション]

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戦後歴代33人にいる日本の総理大臣で、思い浮かぶのは誰だろうか。サンフランシスコ講和条約を結んだ吉田茂、列島改造論の田中角栄、ノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作。挙げていく中で、この人の名前はなかなか出てこないのではないか。戦後2番目の首相となった幣原喜重郎である。衆議院議長も務め、戦後の政治家の中でただひとり、三権の長の二つのポストを経験したにもかかわらず、「忘れられた宰相」となった。それは首相在任期間の短さに加え、大衆的人気とは縁遠い地味な存在だったからだろう。

だが、幣原が日本の歴史を語る上で欠かせないのは、日本国憲法草案に関わった時の首相だからである。本書は幣原の生い立ちから外交官としての生き様を膨大な資料から丁寧に追いながら、日本国憲法草案の舞台裏に迫る。カギになるのは天皇制の維持と戦争放棄・非武装だ。それは連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサーと幣原の二人きりの会談の中から生まれた。天皇制が維持できなければ日本は大混乱に陥ることはマッカーサーも承知していた。その代償としてどこの国もなしえなかった平和国家を掲げることは切っても切り離せない事案だった。

憲法改正作業は5カ月足らずの猛スピードで進められた。なぜなら、強力な権限を持つ連合国の極東委員会が終戦翌年の2月に正式発足するからだ。加盟国のソ連やオーストラリア、ニュージーランドは天皇制維持に強く反対している。憲法改正作業が遅れれば、総司令部と日本政府による憲法草案も吹っ飛ぶだろう。その前に憲法を改正して既成事実化しなければならない。焦る総司令部とさまざまな国情に身動きが取れない日本政府のやりとりが生々しい。

さて、「幣原外交」と世界各国から称賛された彼のモットーは善隣外交だった。中国との協調、国際連盟脱退や日独伊同盟への反発。二・二六事件ではその政治姿勢から命を狙われた。平和を唱えることが「弱腰」と言われた時代に、彼は果敢にも信念を通した。その延長線上に今日の日本国憲法が出来上がったと言える。

マッカーサーは後年、幣原の言葉としてこう語った。「世界はわれわれが実際に即さぬ夢想家であるといってあざけり笑うでしょうが、百年後にはわれわれは予言者といわれるようになるでしょう」。憲法9条は、幣原の提案だったと主張する。これについて幣原は否定している。二人とも故人となった今、真相は霧の中だ。


日本国憲法をつくった男 宰相 幣原喜重郎 (朝日文庫)

日本国憲法をつくった男 宰相 幣原喜重郎 (朝日文庫)

  • 作者: 塩田潮
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2017/01/06
  • メディア: 文庫



僕らが毎日やっている最強の読み方 池上彰、佐藤優 [ノンフィクション]

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文芸評論家の故小林秀雄氏は若いころから胃が悪かった。医者に「たばこをやめれば治る」と言われて禁煙を決心し、病院のテーブルにたばことライターを置いたまま出た。ちなみに、そのたばこを手にした医者が「忘れ物だ」と追いかけて来たそうだが。禁煙のイライラから文筆活動に支障が出ないようになるまでに4カ月かかったと、本人が講演で語っている。頑固な批評家の意志の強さを感じるエピソードだ。

意志の強さでは、この人も匹敵するかもしれない。作家で元外交官の佐藤優氏だ。本書は本や新聞などから日々どうやって情報収集しているか、ジャーナリスト池上彰さんとの対談を通じて読者に披露してくれる。

その中で目を引いたのは、読書などインプットの時間として1日4時間確保するために、酒をやめたというくだりだ。50歳を過ぎてから人生の持ち時間を考えるようになった。酒を飲んだら酔いがさめるまで読書や仕事ができず、それがもったいないと。「酒を飲むのは人生の無駄だ」とまで言い切る。池上さんももともと下戸で、酒をあまりたしなまないから、夜の仕事ははかどるのだそうだ。

読書ブログをつづるほどの本好きでも、好きの度合いでは酒の方が上回る筆者である。多い月には500冊読みこなすという佐藤さんの主張はなるほど、そういう「犠牲」を払ってのことなのかと、敬意を表するしだいだ。真似をして1日禁酒して読書したら、ページの進み具合が著しかった。だが、翌日にはあっさりと酒の誘惑に負け、本を枕にうたたねしてしまった。

何事も意志の強さと、何かをなしえるには大きな犠牲と引き換えにする覚悟がいるのだと痛感した。

僕らが毎日やっている最強の読み方;新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意

僕らが毎日やっている最強の読み方;新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意

  • 作者: 池上 彰
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2016/12/16
  • メディア: 単行本



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