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天災から日本史を読みなおす 磯田道史 [ノンフィクション]

「天災は忘れたころにやってくる」は、夏目漱石の弟子で物理学者の寺田寅彦の言葉がもとだとされる。ただ、この言葉は彼の著書には出てこない。随筆集「天災と国防」の中の表記にそのもととなる表現があり、それが言いやすいキャッチフレーズに変えられて流布されるようになった。

忘れたころの備えとして、地震や津波、火山噴火といった天災に関する歴史資料をひもとき、教訓を引き出そうとするのが、本書だ。天災の中で、人々がいかに行動し、考えたかを古文書の記述から丁寧に追いかけていく。著者は「武士の家計簿」などで知られた歴史家だから、エピソードも満載だ。

例えば16世紀に日本中部で起きた天正地震。豊臣秀吉は徳川家康成敗の戦争準備を進めていた。秀吉側10万の軍勢に家康の兵力は4万強。勝敗は決したかに見えたが、ちょうどその時に天正地震が発生。秀吉は一夜にして前線基地を失った。あの地震がなければ、徳川の息の根は止まり、歴史の流れは大きく変わっていたという。

富士山は1707年の宝永地震から大規模な噴火はない。この時は関東地域まで灰が降ったが、人々は富士山が爆発したことは知らない。余震が続く中で日中でも暗くなるほどの降灰に戸惑う様子が描かれている。

歴史地震研究会に著者は参加する。理系の地震学者と文系の歴史学者が、ともに過去の地震を研究するユニークな学会である。今後予想される東海・東南海・南海地震に備え、科学と歴史双方の見地から教訓を引き出すことは非常に意義が大きいだろう。



天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)

天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)

  • 作者: 磯田 道史
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/11/21
  • メディア: 新書



日本国憲法をつくった男 宰相幣原喜重郎 塩田潮 [ノンフィクション]

戦後歴代33人にいる日本の総理大臣で、思い浮かぶのは誰だろうか。サンフランシスコ講和条約を結んだ吉田茂、列島改造論の田中角栄、ノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作。挙げていく中で、この人の名前はなかなか出てこないのではないか。戦後2番目の首相となった幣原喜重郎である。衆議院議長も務め、戦後の政治家の中でただひとり、三権の長の二つのポストを経験したにもかかわらず、「忘れられた宰相」となった。それは首相在任期間の短さに加え、大衆的人気とは縁遠い地味な存在だったからだろう。

だが、幣原が日本の歴史を語る上で欠かせないのは、日本国憲法草案に関わった時の首相だからである。本書は幣原の生い立ちから外交官としての生き様を膨大な資料から丁寧に追いながら、日本国憲法草案の舞台裏に迫る。カギになるのは天皇制の維持と戦争放棄・非武装だ。それは連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサーと幣原の二人きりの会談の中から生まれた。天皇制が維持できなければ日本は大混乱に陥ることはマッカーサーも承知していた。その代償としてどこの国もなしえなかった平和国家を掲げることは切っても切り離せない事案だった。

憲法改正作業は5カ月足らずの猛スピードで進められた。なぜなら、強力な権限を持つ連合国の極東委員会が終戦翌年の2月に正式発足するからだ。加盟国のソ連やオーストラリア、ニュージーランドは天皇制維持に強く反対している。憲法改正作業が遅れれば、総司令部と日本政府による憲法草案も吹っ飛ぶだろう。その前に憲法を改正して既成事実化しなければならない。焦る総司令部とさまざまな国情に身動きが取れない日本政府のやりとりが生々しい。

さて、「幣原外交」と世界各国から称賛された彼のモットーは善隣外交だった。中国との協調、国際連盟脱退や日独伊同盟への反発。二・二六事件ではその政治姿勢から命を狙われた。平和を唱えることが「弱腰」と言われた時代に、彼は果敢にも信念を通した。その延長線上に今日の日本国憲法が出来上がったと言える。

マッカーサーは後年、幣原の言葉としてこう語った。「世界はわれわれが実際に即さぬ夢想家であるといってあざけり笑うでしょうが、百年後にはわれわれは予言者といわれるようになるでしょう」。憲法9条は、幣原の提案だったと主張する。これについて幣原は否定している。二人とも故人となった今、真相は霧の中だ。


日本国憲法をつくった男 宰相 幣原喜重郎 (朝日文庫)

日本国憲法をつくった男 宰相 幣原喜重郎 (朝日文庫)

  • 作者: 塩田潮
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2017/01/06
  • メディア: 文庫



僕らが毎日やっている最強の読み方 池上彰、佐藤優 [ノンフィクション]

文芸評論家の故小林秀雄氏は若いころから胃が悪かった。医者に「たばこをやめれば治る」と言われて禁煙を決心し、病院のテーブルにたばことライターを置いたまま出た。ちなみに、そのたばこを手にした医者が「忘れ物だ」と追いかけて来たそうだが。禁煙のイライラから文筆活動に支障が出ないようになるまでに4カ月かかったと、本人が講演で語っている。頑固な批評家の意志の強さを感じるエピソードだ。

意志の強さでは、この人も匹敵するかもしれない。作家で元外交官の佐藤優氏だ。本書は本や新聞などから日々どうやって情報収集しているか、ジャーナリスト池上彰さんとの対談を通じて読者に披露してくれる。

その中で目を引いたのは、読書などインプットの時間として1日4時間確保するために、酒をやめたというくだりだ。50歳を過ぎてから人生の持ち時間を考えるようになった。酒を飲んだら酔いがさめるまで読書や仕事ができず、それがもったいないと。「酒を飲むのは人生の無駄だ」とまで言い切る。池上さんももともと下戸で、酒をあまりたしなまないから、夜の仕事ははかどるのだそうだ。

読書ブログをつづるほどの本好きでも、好きの度合いでは酒の方が上回る筆者である。多い月には500冊読みこなすという佐藤さんの主張はなるほど、そういう「犠牲」を払ってのことなのかと、敬意を表するしだいだ。真似をして1日禁酒して読書したら、ページの進み具合が著しかった。だが、翌日にはあっさりと酒の誘惑に負け、本を枕にうたたねしてしまった。

何事も意志の強さと、何かをなしえるには大きな犠牲と引き換えにする覚悟がいるのだと痛感した。

僕らが毎日やっている最強の読み方;新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意

僕らが毎日やっている最強の読み方;新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意

  • 作者: 池上 彰
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2016/12/16
  • メディア: 単行本



ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか 藤代裕之 [ノンフィクション]

「フェイク(偽)ニュース」という言葉が世界を駆け巡り始めたのは、昨年(2016年)の米大統領選がきっかけだ。「ローマ法王がトランプを支持した」「反トランプデモの参加者は現金を受け取っている」―。こうしたニュースはすべて作り物の記事だが、結果的にトランプ大統領誕生を後押しした要因の一つになった。日本でも昨年11月、大手ネット企業のまとめサイトに「肩こりの原因は幽霊」などと書いたでたらめ記事が大量に流れていたことが分かり、運営会社が陳謝に追い込まれた。

ネットジャーナリズムの第一人者の筆者がこの本を執筆したのも、デジタル化に伴うニュースの質の劣化を問題視したためだ。

古今東西、デマや流言は古くからあり、口コミで拡散されていった。筆者はフェイクニュースがなぜ生まれたかを豊富な業界知識を駆使して解説する。それを一言で言えば、ヤフーを代表する「プラットフォーム」と呼ばれるニュース流通基盤の登場が大きく関与している。

かつては新聞社が読者へ質の高いニュースだけを届けてきたが、デジタル化の時代にその流通の役割をプラットフォームが受け持つようになった。当初は「うちは新聞社の記事を届ける新聞配達少年に徹する」と言っていたのが、自らもコンテンツをつくるようになり、責任の所在があいまいになった。その間、プラットフォームと称するサービスはいくつも生まれ、玉石混交のニュースを生み出す温床になっていく。そしてついに「誰も責任を持たない荒野のような状況」が生まれたのである。

SNSの影響も見逃せない。自分が好む話題や意見が増幅され、他者の意見を受け入れなくなることで、フェイクニュースがはびこる環境が生まれた。

ニュースはわれわれの生活の糧である。心地よくても健康を害する糧であれば、口にしないに限る。その目利きを鍛えないと、われわれはうまく生きていけない。そんな時代なのだろう。

ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか (光文社新書)

ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか (光文社新書)

  • 作者: 藤代 裕之
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/01/17
  • メディア: 新書



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