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管見妄語 とんでもない奴 藤原正彦 [エッセイ]

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理系学者で文章のうまい人は多い。夏目漱石の弟子で「天災は忘れたころに来る」で有名な物理学者の寺田寅彦に始まり、最近ではベストセラーを連発する生物学者の福岡伸一青山学院大学教授まで、枚挙にいとまがない。もちろん、へたな人も大勢いるだろうが、なぜだろう。やはり、理論をきちんと組み立てられる能力が、うまい文章構成に活かされているのだろうか。

この著者も、やはりうまい。数学者であり、父・新田次郎、母・藤原ていという作家夫婦の間に生まれた。幼少期に旧満州から母親と命からがら引き揚げた体験を持ち、成長した後は数学者として欧米で知己を得る中で、現代の日本に懸念を持つようになったという。本書は「週刊新潮」の連載コラムだが、鋭い視点で日本の迷走や、不穏に満ちた世界情勢を喝破する。

例えば「『平等』は小うるさい」の項。お茶の水女子大学に勤めていた時、国会で「国立大学であるながら男子を入れないのは差別ではないか」との質問が出て、学内は大騒ぎ。その様子を見ていた著者は喝破する。「女子大であることは本学最大の伝統であり個性であり生命である。伝統は合理性を超越する」と。

話題は世界情勢からキノコ狩りまで縦横無尽の題材を取り上げる。世界を覆う新自由主義を嗤い、学生のいたずらに自分の武勇伝を重ねて懐かしむ。簡潔な文体と豊富な知識・データを採り入れた説得性がこの人の本の魅力である。主張はややエキセントリックな印象を受けることもあるが…


管見妄語 とんでもない奴 (新潮文庫)

管見妄語 とんでもない奴 (新潮文庫)

  • 作者: 藤原 正彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/06/28
  • メディア: 文庫



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まぬけなこよみ 津村記久子 [エッセイ]

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歳時記や七十二候など季節を題材にした本が、書店で目につく。それだけ日本から季節感が薄らいできたのだろうか。秋のイメージがあった運動会は、学校行事の都合でもっぱら5月に日程が映ったし、暖冬で都市部の紅葉も12月にずれ込む。

本書は七十二候を正月から順番につづった脱力系歳時記エッセイ。「ウェブ平凡」で連載したものに加筆修正された。骨正月、バレンタイン、猫の恋、衣替え、蚯蚓(みみず)鳴く‥。季節の言葉をひとつずつ掲げて、自らの思い出や体験を披露する。新聞コラムに出てくるような社会性のある事情はほとんど取り上げない。もっぱら登場するのは、本人の少女時代からのできごとだ。

進学先が決まらないのに学校を追い出され、やけくそになってドッジボールをした卒業式、ロッカーの鍵をプールの底に落として右往左往した夏‥。子供のころから現在に至るまで、屈託のないエピソードばかりだ。折々の風物詩が過去の出来事を引き連れてくるようだ。当時は取るに足らない出来事でも、歳を重ねるごとに筆者の中の情景が豊かに膨らんでくるのだろう。

いつの間にか、七夕にときめかなくなった自分がいる。急に百均に行って折り紙を買い、七夕飾りを作る。そんな季節の移り変わりを楽しむ筆者に思わず共感する。それは四季の豊かな日本に住む読者に等しく伝わるメッセージなのだろう。


まぬけなこよみ

まぬけなこよみ

  • 作者: 津村 記久子
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2017/04/21
  • メディア: 単行本



雨のことば辞典 倉嶋厚・原田稔 [エッセイ]

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もう西日本の桜はピークを過ぎるころか。あいにく週末ごとに天気が崩れるので、花見を予定している人たちはやきもきしているだろう。ようやく咲いたと思えば、桜の花びらが雨に洗われて散っていくのは何とももったいない。

雨と桜にかかわる言葉も少なくない。「花の雨」といえば、桜の花が咲くころに降りかかる雨。「花雨」「桜雨」とも言う。「桜ながし」は鹿児島地方の方言。「流し」は何日も降り続く雨。美しく咲いている桜の花を散り流してしまう無情の雨なのだが、あわれ深い響きがある。

本書は元鹿児島地方気象台長の倉嶋厚さんとエッセイストの原田稔さんの共著で、雨にまつわる言葉を約1200語集めた。世界でも多雨地帯であるモンスーンアジアの東端に位置する日本は、世界平均の約2倍に相当する降水量がある。台風、梅雨前線、秋雨前線、温帯低気圧など、日本の上空には「空の水道」が集中しているという。だからこそ、雨の言葉が多いのだ。

春の花の雨に始まり、木々の青葉からしたたり落ちる夏の青時雨(あおしぐれ)、晩秋に降る冷え冷えとした冷雨(れいう)…。日本の雨は四季のうつろいとともにその様相が千変万化する。それに伴い、陰翳深く美しい言葉が数多く生まれてきたのだ。

春愁や葉がちとなりし花の雨 日野草城


雨のことば辞典 (講談社学術文庫)

雨のことば辞典 (講談社学術文庫)

  • 作者: 倉嶋 厚
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/06/11
  • メディア: 文庫



置かれた場所で咲きなさい 渡辺和子 [エッセイ]

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立春を過ぎたとはいえ肌寒い2月12日、JR岡山駅西口のバス停は長蛇の列ができていた。昨年(2016年)末に亡くなったノートルダム清心学園理事長・渡辺和子さんの学園葬が開かれるホテル向けのシャトルバスを待つ人たちだ。事前に公共交通機関での来訪を学園が呼び掛けていたからホテルの駐車場は空きが目立ち、「岡山県民は律儀だ」と参列者が苦笑いしていた。

ベストセラーとなった故人の著書を書棚から取り出した。渡辺さんは9歳の時、2・26事件で陸軍教育総監だった父親の錠太郎氏を目の前で殺害された経験を持つ。30代で岡山市のノートルダム清心女子大学長に就任。修道者、教育者として激動の人生を送った。理不尽な出来事だらけの生涯を振り返りながら、それでも「人はどんな場所でも幸せを見つけることができる」とのメッセージを送る。

些細な不満も心の持ちようで満たされることもあると渡辺さんは指摘する。大学にあるエレベーターを例に出す。扉が閉まるまでのたった4秒。それすら待てずに「閉」のボタンを押す自分に気づく。以来、その待つ間を祈りにささげた。小さな祈りを唱える習慣を得たことがうれしくなったと書いている。

本のタイトルは、米国の神学者ラインホルド・ニーバーの詩からとっている。書き出しはこんな文だ。

Please bloom where God has placed you.
Rather than give up, make the best of your life and bloom like a flower.

(神が置いた場所で咲きなさい。諦めずベストを尽くし、花のように咲きなさい)

学園葬には、父・錠太郎氏を殺害したとされる青年将校の実弟も神奈川県から駆け付けたと新聞が報道していた。渡辺さんとは恩讐を乗り越え、30年にわたり交流を続けてきたという。渡辺さんほど乗り越えなければならない不条理は持ち合わせなくても、誰でも「なんで私が」と唇をかむ瞬間がある。そんな人たちに救いの手を差し伸べてくれる本として読み継がれるだろう。

置かれた場所で咲きなさい

置かれた場所で咲きなさい

  • 作者: 渡辺 和子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2012/04/25
  • メディア: 単行本



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